花房 花片(はなびら)

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季語の意味・季語の解説
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俳句において「花」という言葉が季語として用いられるとき、それは「桜」のことを指している。
桜をもって花の代表とする習慣は、平安時代以降の日本人が、詩歌などを通じて、受け継ぎ、育んできた美的な合意事項と言ってよいだろう。
なお、万葉集の時代には、花と言えば、むしろ梅を指す場合が多かったようだ。
花は他の色々な語を伴って用いられる事も多く、「花の雲」は、あたり一面に咲き連なってまるで雲のように見える桜を指している。
また、「花明り」は、咲きそろった桜花のあたりが、夜でも明るく見えるような様を指す言葉である。
花という言葉は桜を指しつつも、桜を越えて、栄え、隆盛、美しさ、明るさ、非日常などの意味もその中に含んでいる。

デジカメ写真
季語随想
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私は大学図書館で本を読んだり、文を書いたり、ものを考えたりして一日を過ごすのが好きな学生でした。
大学図書館の庭には桜の木が植わっていて、花の盛りには一人静かにそれを眺めるのが楽しみでした。
私は人混みが苦手なタチで、孤独癖があります。
しかし、桜の花に魅入られている間だけは、なにか多くの人たちと融け合って一体化しているような安心感を覚えることができました。
実際、桜は一人ぼっちで見ているわけですが、今、日本のあちこちで桜を楽しんでいる人たちと、同じルーツを持つ日本人として、同じ美意識で花を美しいと感じているのだなあと自覚できる、そんな安心感です。
かつて、日本のあちこちで桜を愛でてきたいにしえの人々と、桜を通じ、時空を越えて美意識を共有している、そんな安心感です。
日本人は、桜の花の色や香りの奥にある、かなしさを美しいと感じます。
満開になると同時に散り始め、あっけなく盛りを終えてしまう桜に、ハレからケへと戻っていく桜に、儚さ、無常感を孕んだかなしさを覚え、そのかなしさを美しさの基礎に置くのです。
命は皆、風土の中に現れ、やがて風土へ融けるように帰っていくかなしい存在であり、そのかなしさを美しいと感じる…
私もまた、日本人だったのです。
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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日本の四季の自然美を代表する雪月花の一つである花ですが、この季語はユーモアとの相性がいいようです。
雌らしき亀の二郎や花月夜 (凡茶)
太巻の端好む爺花盛り (凡茶)
歌一首もたぬ山なし花の雲 (大島蓼太)
一方で、花と言う季語は、静けさ、ものかなしさを添えても生きるようです。
花に風かなしき龍の言ひ伝へ (凡茶)
花の香や嵯峨の灯火きゆる時 (与謝蕪村)
そして花は、心を弾ませるだけでなく、心を軽くし、落ち着かせてもくれます。
花の雲鐘は上野か浅草か (松尾芭蕉)
≪おすすめ・俳句の本≫
・語りかける季語 ゆるやかな日本
・ゆたかなる季語 こまやかな日本 宮坂静生著
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■ 日本列島を隅々まで旅すると、たくさんの知らなかった季語に出会えます!
筆者の宮坂さんは、そうした言葉を「地貌季語」と称し、その発掘に努めてきました。
『語りかける季語 ゆるやかな日本』では、沖縄の「立ち雲」、雪国の「木の根明く」ほか、178の地貌季語が紹介されています。
また、『ゆたかなる季語 こまやかな日本』では、千葉県安房地方の「逆さ寒」、沖縄県の「風車祝」、長野県諏訪地方の「明けの海」ほか、172の地貌季語が紹介されています。
この2冊を読めば、日本列島という空間と、季節と言う時間を一度に旅することができそうですね。季語の四次元ワールドを巡ってみましょう。
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