初鰹(はつがつお) (夏の季語:動物)

     初松魚(はつがつお)

初鰹(はつがつお)
26夏の季語・動物・初鰹.jpg
        パソコン絵画


季語の意味・季語の解説
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 回遊魚である鰹(かつお)は、初夏の頃、黒潮に乗って南方から日本近海にやってくる。
 この頃獲れる走りの鰹を初鰹(はつがつお)と呼ぶ。

 初鰹は江戸時代の人々に珍重され、当時は極めて高価であったらしいが、粋を重んじる江戸っ子の間では「初鰹は女房子供を質に置いてでも食え」と言われるほど愛された。
 その江戸の初鰹は鎌倉あたりの漁場から供給されたため、松尾芭蕉は次のような一句を残している。
 
  鎌倉を生きて出けむ初鰹 (芭蕉)
      出けむ=いでけむ

 なお、初鰹は初夏の季語であるが、単に鰹と言えば夏の季語である。
 また九〜十月頃に、三陸沖から南下してくる鰹は戻り鰹(もどりがつお)と呼ばれ、秋の季語である。


季語随想
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 初夏の青葉のころ、黒潮に乗って南の海からやってくる鰹を「初鰹」と呼ぶ。
 これに対し、親潮が強まって水温の低下する秋に、三陸あたりの海から、関東以南へ南下してくる鰹を「戻り鰹」と呼ぶ。

 近年、本当の旬の鰹は、初夏の初鰹ではなく、秋の戻り鰹であるという主張をよく目にするようになった。
 血の香りの強い初鰹より、餌をたっぷり食べて脂ののった戻り鰹の方が、味としては上であるとする説が、食通の間ではパラダイムとなりつつあるようだ。
 彼らによると、初夏の初鰹を有難がる風潮は、初物を好む江戸っ子気質の産物であり、先入観を除いて舌だけで鰹を味わうと、戻り鰹の方が、食材として優れているということになるらしい。
 
 はたして、そう言い切れるだろうか?

 たしかに腹のあたりにたっぷりと脂をためた戻り鰹は旨い。
 鮪のトロを凌ぐ味と言ってもいいかもしれない。
 私も目が無い。

 しかし、初夏の初鰹には、秋の戻り鰹にはない、さわやかさがある。
 そのさわやかさは、清冽な香りを持つ薬味と実に相性がよい。
 ゆえに、初夏の薄暑に、薬味をたっぷりかけた初鰹を食べると、全身が清涼感に包まれる。

  朝採りの島の薬味で初鰹 (凡茶)

 その清涼感のあるうちに、冷酒を舌に転がすと、少し汗ばんだ体がシャキッとする。
 この醍醐味は秋の戻り鰹では楽しめない。

 要するに、鰹には旬が二度訪れると考えるのが、最も妥当ではないだろうか。
 鰹は、初夏には初夏にふさわしいすっきりとした身で日本にやってきて、秋には秋にふさわしい脂のたっぷりのった身で、北から南に戻ってくるのだ。

初鰹の刺身
26夏の季語・動物・初鰹の刺身.jpg
        デジカメ写真



季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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 初鰹という季語を用いた句には、俳句に興味のない人でも知っている、たいへん有名な作品があります。
 江戸時代に詠まれた次の作品です。

  目には青葉山ほととぎすはつ松魚 (山口素堂)
      はつ松魚=はつがつお。

 初夏の季語が三つも入った珍しい作品ですが、たしかにすごい句です。
 最初に「青葉」で視覚に訴えかけ、次に「ほととぎす」で聴覚に訴えかけ、次に、初鰹の身の鮮やかなルビー色でもう一度視覚に訴えかけた上で、最後に味覚を刺激します。
 
 初夏にこの句を読むと、誰しもが初鰹を味わいたくなります。
 また、実際に初鰹を味わう時は、誰しもがこの句を口に出してしまいます。
 日本人が最も多く口に出した俳句は、おそらく、芭蕉の「古池や〜」か、素堂の「目には青葉〜」のどちらかだと思います。

 この句は、日本人が愛する初鰹を詠んだというより、日本人に初鰹を愛させた傑作と言っても過言ではないでしょう。

 これほどの名句があると、今さら「初鰹」でどんな俳句を作っても見劣りしてしまいそうで、創作意欲がなかなか湧いてこないというのが実情です。
 そこで私は、初鰹を季語に用いる場合は、はめをはずして、思い切り遊んでみることにしています。
 大胆に遊んで、素堂の句とは一味違う鮮烈な一句をこれからも目指していきたいと思ってます。

 まずは、日本よりずっと南で、誰よりも早く初鰹を味わってみました。
 
  椰子酒と南十字と初鰹 (凡茶)
      椰子酒=ヤシ酒。ヤシの樹液から造るお酒。

 なぜでしょうか? 一抹の寂しさのある句になった気がします。

 次は、文語ではなく、しゃべり言葉で一句を作ってみました。
 わたしは、めったにこういう句は作りませんが、遊ぶと決めたらとことん遊んでみたいと思います。

  この俺が職場じゃ龍馬初鰹 (凡茶)



≪おすすめ・俳句の本≫

俳句の宇宙 長谷川櫂著
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■ 俳句は深くて、面白いなあ… 心からそう思えた本でした!


 最も私の心をとらえたのは第四章「間について」
 この章を読み、俳句の「切れ」を「間」と捉え、その「間」をじっくり味わおうとするようになってから、既に目にしていた名句が、それまでとは違って見えてくるようになりました。

 また、第七章「宇宙について」も、面白くてあっという間に読んでしまいました。
 この章で、「造化」というものに関する著者の考え方を読んでから、芭蕉の時代の句に接する際は、その句が生み出される場としての「造化」というものを読み取ってみようと意識するようになりました。
 もちろん、私ごときが読み取ろうと思って読み取れるような浅いものではないのですが…

 とにかくこの本は、
 「自分が足を踏み入れた俳句の世界は、どこまでも深いんだなあ。そして、深みに潜れば潜るほど、新しい面白みに接することができるんだなあ… 」
 そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。



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posted by 凡茶 at 12:58 | Comment(0) | 夏の季語(動物) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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