朝凪(あさなぎ) (夏の季語:天文)

     朝凪ぐ(あさなぐ)

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        パソコン絵画


季語の意味・季語の解説
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 地表付近の風は、気温の低いところから、気温の高い方へ向かって吹く性質がある。
 気温の低いところは空気が沈んできて濃くなり(気圧が高くなり)、気温の高いところは空気が上空に浮かんで薄くなる(気圧が低くなる)からだ。
 
 ゆえに、夏の海岸地方では、海が陸よりも涼しくなる昼には、海から陸に向かって海風(かいふう)が吹き、陸が海よりも涼しくなる夜には、陸から海に向かって陸風(りくふう)が吹く。

 そして、夜の陸風から昼の海風に風向きが入れ替わる朝、風がほとんどなくなる時間帯がある。
 これが朝凪(あさなぎ)である。

 これに対し、昼の海風から、夜の陸風へと風向きが替わる頃の無風状態を夕凪(ゆうなぎ)と呼ぶ。

 夕凪は、昼のあいだ太陽に熱せられ続けた後に起こる無風状態であるから、人々はこれを暑くて耐えがたい時間帯と受け取る。
 
 これに対し、朝凪は、これから長い長い夏の一日が始まる前の、静かで落ち着いた時間帯という感じがする。 

 「朝凪」と「夕凪」、この二つの季語を上手に使い分けたい。


季語随想
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 教員時代、生徒の引率で、三陸の小さな漁村を訪れたことがある。

 何日目かの朝、漁港のあたりを散歩していると、どこからともなく老人が現れて海の方を向き、持っていた杖を足元に置いた。

 そして老人は、ポンポンと柏手を打つと、深々と海に対して一礼し、杖を拾って戻っていった。

 老人は、沖に船を出している家族の無事を祈って海を拝んだのだろうか?
 それとも、自らの人生の全てを捧げた生業の場に、心からの敬意を表するために海を拝んだのだろうか?

 いずれにせよ、老人にとっては…、

 生きることとは、海の怖さを知り、海から身を守る術(すべ)を身につけることであったに違いない。

 生きることとは、海の恵みを知り、海から与えられる術を身につけることであったに違いない。


 老人の去った後の朝凪の静けさの中、自然と次のようなことを考えていた。

 進学校の教師である私は、生きることとは、競争社会に勝ち抜く術や、効率よく利益を得る術を身につけることであるなどと、疑いもなく教壇で語ってはいなかったろうかと。 


季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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 上の「季語随想」に書いたように、私は朝凪(あさなぎ)の三陸海岸で、海を拝む老人という、とても印象に残る光景を目にしました。
 そして、その日のうちに、次の二つの俳句を得ることができました。

  杖置いて朝凪の海拝みけり (凡茶)

  朝凪の海を拝みて杖拾ふ (凡茶)
      杖=つえ。

 前者は、老人が海に現れてから、海を拝むまでを詠んだものであり、後者は、海を拝んでから、海から去るまでの時間を詠んだものです。

 はじめ、私は、二つのうちのどちらの俳句を、自分の作品として正式に採用すべきか迷いました。
 しかし、迷った末、両方とも自分の作品として残すことに決めました。

 二句からは、ともに「海の静けさ」「海の神秘性」「海への畏敬」を感じ取ることができ、「朝凪」という季語をよく活かせてると、自惚れることができるからです。

 風の無い耐えがたい暑さを連想させる夕凪(ゆうなぎ)という季語に対し、夏の一日が始まる前の静かさを連想させる朝凪という季語を用いた秀句は、まだそんなに多くはないと思われます。
 積極的に朝凪の句を詠んで、句会や俳誌で評価を仰いでみましょう。



≪おすすめ・俳句の本≫

俳句の宇宙 長谷川櫂著
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■ 俳句は深くて、面白いなあ… 心からそう思えた本でした!


 最も私の心をとらえたのは第四章「間について」
 この章を読み、俳句の「切れ」を「間」と捉え、その「間」をじっくり味わおうとするようになってから、既に目にしていた名句が、それまでとは違って見えてくるようになりました。

 また、第七章「宇宙について」も、面白くてあっという間に読んでしまいました。
 この章で、「造化」というものに関する著者の考え方を読んでから、芭蕉の時代の句に接する際は、その句が生み出される場としての「造化」というものを読み取ってみようと意識するようになりました。
 もちろん、私ごときが読み取ろうと思って読み取れるような浅いものではないのですが…

 とにかくこの本は、
 「自分が足を踏み入れた俳句の世界は、どこまでも深いんだなあ。そして、深みに潜れば潜るほど、新しい面白みに接することができるんだなあ… 」
 そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。



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posted by 凡茶 at 01:20 | Comment(0) | 夏の季語(天文) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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