いぼむしり 拝み虫

パソコン絵画
季語の意味・季語の解説
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蟷螂(かまきり・とうろう)は鎌のような鋭い前肢を持ち、蝶、蜂、蜘蛛など、様々な虫を捕えて食べる。
作物につく害虫も食べてくれるので益虫であるが、鎌で挟んだ獲物をおちょぼ口でむしゃむしゃと食い進んでいく姿は、やはり恐ろしい。
一般的には「かまきり」と呼ばれるが、いぼむしり、拝み虫などの俗称がある。
俳人には「蟷螂」と漢字で書いて、「とうろう(たうらう)」と読ませる俳句を作る人が多い。
季語ばなし
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子供の頃、夏休みの宿題として、昆虫の標本づくりを課せられたことがある。
そこで私は、両親に頼み、近くの山へ昆虫採集に連れて行ってもらった。
山では、町工場のひしめくわが家の周辺では見たこともないような不思議な昆虫を、たくさん捕まえることができた。
いつも目にするトンボより倍以上大きいオニヤンマ、カラフルで大きな羽を持つアゲハチョウ、水色で宝石のように美しいシオカラトンボ、緑鮮やかなウマオイ…
たくさんの昆虫を捕まえた私は、これらの虫をピンでとめて標本にし、友達に自慢するのを楽しみにしながら、父の運転する車でわが家へ向かった。
家に着き、車から降り、トランクから虫籠を出すと、その中はとんでもないことになっていた。
なんと、多くの昆虫を入れておいたはずの虫籠の中には、最後に捕まえた一匹のカマキリだけしか、虫が入っていないのである。
大食漢のカマキリは、わずかの時間の間に、オニヤンマもアゲハチョウも、みんな平らげてしまったのである!
この時、私は、「弱肉強食」という自然界の掟の恐ろしさを、始めてリアルに実感した。
そして、同時に、私という存在が、弱肉強食を掟とせずに生きていかれる人間であるということを、心よりありがたいと思った。
近年、人間界にも弱肉強食の掟を浸透させようとする雰囲気が、色濃く漂い始めている。
人間界がカマキリを入れた虫籠のようにならないよう、物書きとしてやれることはやっていきたい。
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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蟷螂(かまきり・とうろう)が獲物を食う様子をじっくり観察し、いくつか写生句を作ってみました。
私の俳句の場合、「蟷螂」は「かまきり」でなく「とうろう」と読みます。
蟷螂の共食ひ鎌を食ひ残す (凡茶)
蜘蛛の腹破る蟷螂のおちよぼ口 (凡茶)
蜘蛛=くも。 破る=やる。引きちぎること。
おちよぼ口=おちょぼ口。
もがく蝉休みては食ふいぼむしり (凡茶)
いぼむしり=カマキリの俗称。
平らげて蟷螂鎌の汁を舐む (凡茶)
正直、どれもこれも気味の悪い、怖い景です。
そんな景でも、積極的に詠んでいこうとするのが、和歌には無い俳句のたくましさでしょう。
さて、こんなに怖さを感じさせる蟷螂ですが、この季語を、怖さや気味悪さとは無縁な別の語句と取り合わせてやると、俳諧味のある面白い句ができることがあります。
蟷螂の奢りきはめる花野かな (佐野蘆文)
奢り=おごり。
蟷螂やパフェを分け合ふ女の子 (凡茶)
最後に、信濃の俳人、小林一茶の一句を紹介します。
彼の句からは、皆が怖いと感じる蟷螂への愛情を感じ取ることができます。
蟷螂はむか腹立つが仕事かな (小林一茶)
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