虫鳴く 虫時雨(むししぐれ) 虫の夜 虫の闇
虫の秋 昼の虫
虫の夜

デジカメ写真
● 季語の意味・季語の解説
俳句において「虫」と言えば、秋に草むらで鳴く虫たちの総称である。
リリリリと鳴く蟋蟀(こおろぎ)、リーンリ−ンと鳴く鈴虫、チンチロリンと鳴く松虫、チョンギースと鳴く螽蟖(きりぎりす)、スイッチョンと鳴く馬追(うまおい)などは、全て単独で秋の季語であるが、「虫」という季語はこれらの虫を全て含んでいる。
其中に金鈴をふる虫一つ (高浜虚子)
其中=そのなか。
虫の声は、オスたちが求愛のために翅(はね)を摺り合わして鳴らすもので、「虫時雨(むししぐれ)」とは、そうした虫の声が幾種類も重なりあって、とても賑やかになっている様子をさす。
また、「虫集く(むしすだく)」も同様の意味である。
虫時雨銀河いよいよ撓んだり (松本たかし)
撓んだり=たわんだり。
虫しぐれ吾子亡き家にめざめたり (谷野予志)
吾子=「あこ」と読む。わが子。
● 季語随想
虫たちが心地よい音を奏でている。
静かな夜だ。
ところで、世界のほとんどの文化では、虫の出す音に風情や趣を感じたりなどしないという。
それどころか、虫が鳴いていても、それを虫の出している音だと認識できていないこともあるらしい。
「虫の出す音」を「虫の声」と捉え、「ああ、秋も深まったなあ」などとしみじみ聞き入る日本人は、稀有な文化の中を生きているようだ。
政治家やマスコミ、ジャーナリストによって日本の危機が叫ばれ、国民も漠然とした不安を常に抱えているが、真の日本の危機とは、日本人が虫の声を心地よい音ではなく雑音と感じるようになり、さらには騒音と感じるようになる、そんな時なのではないか。
私たちが、書斎やふとんの中で気持ちよく虫の声を楽しめているうちは、まだまだ日本文化、いや「日本」は、たくましくここに存在している。
ともあれ、今夜はたっぷりと虫時雨を浴びながら、読書とウイスキーでも楽しもうと思う。
ニュースから離れたき夜や虫と酒 (凡茶)
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
「虫」を季語に俳句を詠む場合、私は、虫の声の背後にある「閑かさ」を味わい深く表現するように努めます。
先人の句を鑑賞する時も、その作品に描かれた「閑かさ」を楽しみます。
次の二句に描かれている閑かさは、ほんのり淋しさを帯びています。
虫なくや我れと湯を呑む影法師 (前田普羅)
虫鳴くや離れにて剪る明日の供花 (凡茶)
離れ=はなれ。母屋から離れている家。 供花=くげ。仏さまや亡くなった人に備える花。
次の三句は、閑かさが美しく表現されていると思います。
虫啼くや草葉にかかる繊月夜 (三宅嘯山)
啼く=なく。 繊月夜=ほそ月夜。
窓の燈の草にうつるや虫の声 (正岡子規)
虫鳴き満ち灯影々々に団欒あり (福田蓼汀)
団欒=「まどゐ(まどい)」と読む。
次の二句の閑かさには、畏れのようなものを感じます。
啼かぬもの浅間ばかりよ虫の秋 (吉川英治)
水注いで甕の深さや虫時雨 (永井龍男)
次の三句には、虫の声の中で閑かさを感じている人物の、心の落着きのようなものが表現されています。
本読めば本の中より虫の声 (富安風生)
虫時雨寡黙で通す友寝たり (凡茶)
書きかけの譜面を虫の夜の書架へ (凡茶)
書架=しょか。本棚のこと。
≪おすすめ・俳句の本≫
佳句が生まれる「俳句の形」 凡茶
==============================
■ 当サイトの筆者が執筆した本です!
■ 電子書籍(Kindle本)と製本版(紙の本)から選べます!
上の商品リンクのうち、左が電子書籍(Kindle本)のものです。廉価な商品となっており、購入・ダウンロード後、ただちにお読みいただけるというメリットがあります。Kindle本については、下で説明します。
上の商品リンクのうち、右が製本版(紙の本)のものです。「やっぱり本は、紙のページをめくりながら読みたいなあ…」という方のために用意させていただきました。
オンデマンド (ペーパーバック)という、注文ごとに印刷・製本されるタイプの本です。
いずれかをクリックすると、本著の詳しい内容紹介や目次を見られるAmazonのページが開くので、気軽に訪れてみて下さい。
さて、俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
この本は、こうした佳句の生まれやすい美しい俳句の形を、読者の皆様に習得していただくことを目的としています。
なお、この本は、前著『書いて覚える俳句の形 縦書き版/横書き版』(既に販売終了)を、書き込み型テキストから「純粋な読み物」に改め、気軽に楽しめる形に書き変えて上梓したものです。
あちこち加筆・修正はしてあるものの、内容は重複する部分が多いので、すでに前著『書いて覚える俳句の形』をお持ちの方は、本著の新たな購入に際しては慎重に検討してください。
●Kindle本について
Kindle(キンドル)本とは、Amazonで購入できる電子書籍のことです。
パソコン・スマホ・タブレットなどに無料でダウンロードできるKindleアプリを使って読むことができます。
あるいは、紙のように読めて目に優しく、使い勝手も良い、Kindle専用の電子書籍リーダーで、快適に読むことも出来ます。
季語めぐり 〜俳句歳時記〜 トップページへ