蓑虫

デジカメ写真
季語の意味・季語の解説
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ミノガ(蓑蛾)類の幼虫。
オオミノガ、チャミノガなどの種類がいる。
食べ余した枯れ葉、小枝、樹皮などをねっとりとした糸で絡め、袋状の巣を作って木の枝や民家の軒先にぶら下がる。
その巣が蓑(みの)に似ているため、蓑虫(みのむし)の名がついた。
春、オスは羽化して蛾(ガ)となり、蓑を離れるが、メスは一生を蓑の中で過ごす。
江戸時代から多くの俳人が用いた秋の季語であり、「蓑虫鳴く」という副題もある。
ただし、実際の蓑虫は鳴いたりはしない。
どこからともなく聞こえてきた物悲しい音が、淋しそうに風に揺られる蓑虫の声のように感じられたのであろう。
あるいは、低木や民家の垣根に暮らす鉦叩(カネタタキ:コオロギ科の昆虫)の声を、蓑虫のものと誤認したという説もある。
蓑虫には「鬼の子」「鬼の捨子(すてご)」という異名がある。
清少納言も『枕草子』の中に、「蓑虫いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれもおそろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて…」などと書いている。
代表的な蓑虫である「オオミノガ」は植木などを食い荒らすため、長らく害虫として駆除の対象とされてきた。
しかし、近年は絶滅危惧種に指定される昆虫となっている。
1990年代の半ばに日本で生息するようになった「オオミノガヤドリバエ」という外来の昆虫に寄生されたことが原因らしい。
このハエは、もともと中国あたりで蓑虫退治のために大量に使われたものらしいのだが、どのように日本にやってきたかは不明とのこと。
蓑虫を見かけない秋を想像すると、なんだか気味が悪くなる。
季語随想
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世の中が冷静さを失った時、私は蓑虫になるようにしている。
身の丈に合った粗末な家に籠り、ときおり顔を出しては外の様子を窺う蓑虫になる。
世の中が冷静さを取り戻すまで、決して、狂気の流れに飲み込まれないよう、濁流の上の木の枝にぶら下がる蓑虫になるのだ。
人間は、国、民族、身分などと、枠にはめて人間を捉え始めたとき、一人一人の人間を思い浮かべる想像力を失う。
一人一人の人間の笑顔、涙、夢、希望、悲しみに思いを馳せることができなくなってしまう。
一人一人の人間に、精一杯の愛を注いできた人たちがいることをイメージする、人間ならではの理性と知性を放棄してしまうのだ。
人間たちが自分たちを枠と枠とに振り分け、己が属さぬ枠を憎悪するおぞましい連鎖に陥ったとき…
決して濁流に落ちて流されることのない、木の枝の蓑虫になるのだ。
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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蓑虫が実際に鳴くことはありません。
しかし、昔から俳人は、秋の静けさの中に、蓑虫の声を聞き取ってきました。
きっと、どの鳴き声も、淋しく、心にしみるものだったに違いありません。
私たちも、蓑虫の鳴く声を積極的に俳句に詠んでいきましょう。
江戸時代の句を三つ紹介します。
蓑虫の音を聞きに来よ草の庵 (松尾芭蕉)
庵=いお。粗末な家のこと。
みのむしはちちと啼く夜を母の夢 (志太野坡)
啼く=なく。
みの虫や啼かねばさみし鳴くもまた (酒井抱一)
また、蓑虫の姿を見ると、深まる秋のかなしさに、胸がしめつけられるような気になります。
このしみじみとした趣を俳句に表現したいものです。
みのむしや笠置の寺の麁朶の中 (与謝蕪村)
笠置の寺=かさぎのてら。京都にある真言宗智山派の寺。 麁朶=そだ。たきぎ等に用いる切り取った木の枝。
蓑虫や納屋の灯落つる水たまり (凡茶)
ところで、蓑虫は葉や枝に替わる適当な大きさのものがあれば、なんでも蓑として着こんでしまいます。
ですから、昔の子供は、蓑を剥ぎ取った蓑虫を色とりどりの紙くずや糸の中に置き、カラフルな蓑を作らせて遊んだようです。
何か変わったものを蓑に用いている蓑虫を詠むと、面白い句になるかもしれません。
蓑虫や恋占ひの紙縒り着て (凡茶)
紙縒り=こより。
最後に、蓑虫に愛おしさを感じて詠んだ私の句を一つ紹介します。
蓑虫や風上で蒸す饅頭屋 (凡茶)
≪おすすめの本≫
にんげんだもの 相田みつを
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■ 厳選された言葉の力に触れ、たちまち目頭が熱くなりました。
たちまち心が震え、目頭が熱くなり、その場で感涙をこぼしそうになったので、あわててレジに向かったことを覚えています。
この本は俳句の本ではなく、書の本ですが、掲載されている数々の作品は無駄のない厳選された言葉で読み手の心を打つ短詩であり、俳句を創る上で大いに参考になります。
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