松茸

デジカメ写真
季語の意味・季語の解説
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松茸はアカマツ林などに生える日本の茸の王様であり、俳句では晩秋の季語とされる。
松の林に入ると、落ち葉の腐植などから良い匂いが出ているが、それを凝縮したような香りを持っている。
松茸の山かきわくる匂ひかな (各務支考)
土になる松茸は、椎茸やなめこのような木・朽木になる茸と違って、今のところ人工栽培ができない。
そのため、需要に対し供給が常に不足し、きわめて高価な食材となっている。
また、人々が薪(たきぎ)を拾わなくなったことで山が荒れ、松茸が生えにくくなったことも、松茸に希少価値が出た原因と言われる。
季語随想
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ぼくの爺ちゃんは茸狩り名人だった。
じこぼう(ハナイグチ)、くりたけ、こむそう(ショウゲンジ)、あみたけ…
秋になると色々な茸を採って来て食べさせてくれた。
ある日、松茸という茸の存在を、誰かに聞いて知ってしまった僕は、爺ちゃんにこう聞いてみた。
「爺ちゃんは、松茸は採ってこないの?」と。
爺ちゃんは、松茸の生える山は、止め山(勝手に入ってはいけない山)になっているから、めったに採ってくることは出来ないんだと教えてくれた。
それを聞いた僕は、どうしても松茸を食べてみたくなり、母ちゃんに何度も松茸を食わしてくれと頼んだ。
でも、貧しい我が家で松茸なんて買えるはずもなく、その年は諦めざるを得なかった。
その翌年だったと思う。
ついに僕にも松茸を食べるチャンスが巡ってきた!
工場に働きに出るようになった母ちゃんが、毎日の食材を家まで届けてくれる配達サービスを利用するようになり、その配達サービス会社に安い松茸を一本だけ注文してくれたのだ。
僕は、松茸が届く何日も前から、わくわくしながらそれを待った。
しかし、僕はその年も結局松茸を食べることができなかった。
松茸が届いたその日、茸狩り名人だった爺ちゃんが永眠したのだ…。
松茸はお吸い物となって葬儀に訪れた人たちに供され、僕ら子供の口に入ることはなかった。
それから何年も経ったのち、僕は松茸山へ出かけ、自分の稼いだ金で、松茸づくしのフルコースを思う存分に食べた。
生まれて初めての松茸は実に旨かった。
できることなら、天国の爺ちゃんや父ちゃんにも腹いっぱい松茸を食べさせてやりたい、そう思った。
でも、こんなふうにも思った。
松茸は確かに旨い。
確かに旨いけど、爺ちゃんが山から採ってきた、じこぼう、くりたけ、こむそう、あみたけだって、松茸に全然負けないくらい旨いじゃないかって。
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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松茸を詠んだ俳句には、ユーモラスなものが多いように思えます。
高貴な香りを放つ茸の王様なのに、随分あいくるしい形をしているからでしょうか?
松茸や知らぬ木の葉のへばりつく (松尾芭蕉)
松茸や人にとらるる鼻の先 (向井去来)
松茸や傘にたつたる松の針 (浪化)
たつたる=立ったる。立っているの意。
私の俳句も、どことなくユーモラスな俳句に仕上がったようです。
ころころと松茸焼けり内緒旅 (凡茶)
子松茸一つ負けさせ京訛 (凡茶)
訛=なまり。
≪おすすめ・俳句の本≫
俳句の入口 〜作句の基本と楽しみ方 藤田湘子著
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■ 俳句はリズムである… 大切なことを教えてくれた一冊です。
つまり以前の私にとって、定型は約束事だから仕方なしに守る制約にすぎなかったのです。
しかし、この本を読んで、俳句は韻文であり、大切なのはリズムであることを知ると、定型、切れ字等の大切さが少しずつわかるようになっていきました。
「意味」から「音」へ!
私の俳句に対する意識を大きく変えてくれた一冊です。
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