鹿 (秋の季語:動物)

     牡鹿(おじか) 牝鹿(めじか) 鹿の妻 妻恋ふ鹿
     鹿鳴く(鹿啼く) 鹿の声 鹿の音(しかのね) 鹿笛

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        パソコン絵画


季語の意味・季語の解説
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 鹿は日本列島の山中に広く分布する野生の草食動物である。
 優しい性格で人に懐きやすいため、奈良公園、宮島、金華山などでは餌を持つ観光客を慕って群がってくる。

 鹿が秋の季語とされるのは、牡鹿(おじか)が牝鹿(めじか)を恋うてもの悲しい声をあげる交尾の時期が秋だからである。

 なお、交尾の後、妊娠した鹿は孕鹿(はらみじか)と呼ばれ、こちらは春の季語となる。
 また、その後生まれた鹿の子(かのこ・しかのこ)は夏の季語となる。
 秋の季語のつもりで子鹿という語を用いると、季節感のちぐはぐな俳句になるので気をつけたい。


季語随想
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 鹿ほど「かなし」という形容詞がぴったりとはまる動物はいない。

 与えた鹿せんべいを夢中になって食べる姿は「愛し」である。
 何頭かが集まって、気持ちよさそうに日向ぼっこをしている様子も「愛し」である。

 かつて、重要なタンパク源として、狩猟の対象とされてきた境遇は「哀し」である。
 山里では、作物を食い荒らす害獣として駆除せざるを得ない現実も「哀し」である。

 ところで、百人一種に次のような歌が採られている。

  奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋はかなしき (猿丸大夫)

 この歌の「かなしき」は「愛しき」だろうか「哀しき」だろうか?

 また、少し離れたところから、こちらをじっと見つめる黒く澄んだ鹿の瞳は、「愛し」だろうか「哀し」だろうか?

 どちらとも言えるし、どちらとも言えない。
 それが答えであろう。

 なんとも美しい曖昧さではないか。

 経済や政治の世界では、日本語のこの曖昧さがしばしば嫌われる。
 しばし、文学や日常生活の中では、この美しき曖昧さを大切に残していきたい。


季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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 季語随想の内容と重なりますが、日本語には「かなし(愛し・哀し・悲し)」という言葉があります。

 かわいい、心にしみていとしい、心がいたむ、せつない、かわいそうである、気の毒である等の意味を含む言葉です。
 今風にいえば、「胸がキュンとなる感じ」でしょうか…

 秋の妻恋う鹿の鳴き声は、まさに「かなし」を感じさせ、古くから日本人の心を捉えてきました。
 俳句にも、鹿の声を詠んだものがたくさんあります。

  びいと啼く尻声悲し夜の鹿 (松尾芭蕉)

  明星や尾上に消ゆる鹿の声 (菅沼曲翠)

  庵室のはやく古びて鹿の声 (早野巴人)

  鹿聞いて行燈急にかすかなり (溝口素丸)
      行燈=あんどん。

  温泉の山や肌骨に徹る鹿の声 (佐藤晩得)
      温泉=「ゆ」と読む。 肌骨=きこつ。

  鹿老いて妻なしと啼く夜もあらん (井上士朗)

  鹿啼くや沼の底より泡一つ (凡茶)

 また、温和な性格の鹿は、見る者の心を優しくします。
 鹿を季語に俳句を読むときは、優しさに満ちた作品に仕上げたいものです。

  蜻蛉に片角かして寝鹿かな (小林一茶)

  傘のまま鹿撫でゐたり雨後の寺 (凡茶)



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posted by 凡茶 at 03:21 | Comment(0) | 秋の季語(動物) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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