粉雪 細雪 小米雪 雪片(せっぺん) ひとひらの雪
大雪 小雪 薄雪 深雪(みゆき) 新雪 根雪(ねゆき)
雪明り 雪の声 雪国 吹雪 雪しまき
綿雪 牡丹雪(春季)
雪

パソコン絵画
季語の意味・季語の解説
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■ 季語「雪」の副題
雪月花という言葉があるが、詩歌の世界において冬の雪は、春の花、秋の月とともに、日本の自然美の代表格として扱われてきた。
俳句の世界でも、雪の句は数えきれないほどたくさん詠まれてきた。
そのため、季語「雪」には様々な副題が存在する。
代表的なものを見ていこう。
まずは、雪の花、雪華(せつか)、六花(むつのはな)。
これらの季語は、虫眼鏡などで雪を覗くと、その結晶が美しい六角形の花のようになっていることに由来する。
次は雪の大きさや形状に由来する季語。
気温が特に低い時に降る小粒の雪には、粉雪、細雪(ささめゆき)、小米雪(こごめゆき)などの呼称が付けれれている。
このうち、最も細かい雪はさらさらの粉雪で、細雪、小米雪はそれより少し粒の大きい印象を受ける。
細かくちぎった紙のように、ひらひら舞ってくる雪が雪片(せっぺん)。
これをやわらかく表現するとひとひらの雪となる。
なお、ふんわりと大きな雪には、綿雪、牡丹雪(ぼたんゆき)の呼び名がある。
ただし、こうした大きな雪は、比較的暖かい時に降る雪であるため、春の季語「淡雪」の副題として扱われることが多い。
雪の程度を示す季語としては、大雪(おおゆき)と小雪(こゆき)がある。
言うまでもなく、激しく大量に降る雪が大雪であり、ちらつく程度に少しだけ降る雪が小雪である。
薄雪、深雪(みゆき)、新雪(しんせつ)、根雪(ねゆき)は雪の積もった様子を表現する季語。
薄雪と深雪については、それぞれ字のごとく、雪が薄っすらと積もっている様子と、雪が深々と積もっている様子を指す。
新雪は積もったばかりの汚れていない雪を指す言葉で、特に全く足跡の無い雪は処女雪とも呼ばれる。
これに対し、根雪とはずっと前に降ったまま融けることなく残っている雪であり、その上には、あとに降った雪が幾重にも被さっていることが多い。
雪明りは、積もった雪がその反射によって夜闇の中でほんのり明るく見える状態を指す言葉。
上手に用いると、幻想的な俳句が出来るかもしれない。
雪の声は、雪が降り重なっていくときに聞こえてくる音。
この季語を用いると、静かさの際立った俳句が出来る。
なお、雪を孕んだ強風を指す吹雪と雪しまきは、多くの歳時記で、雪の副題ではなく、独立した季語として扱われている。
■ 雪の厳しさ
ところで、詩歌においては美の象徴として扱われることの多い雪だが、実生活における雪は、人々の行動を制約し、様々な不便・困難を強いる厳しい気象である。
私と弟は二人で青森を旅した際、雪で命を落としそうになったことがある。
その日は、八戸市で煎餅汁を楽しんだのち、帆立料理を食うために青森市へ車を走らせいた。
すると途中、八甲田山のあたりで猛吹雪に遭い、激しい風雪に車のワイパーを壊されてしまった。
前方を見られなくなってしまったわれわれは、山中で身動きが取れなくなってしまったのである。
どんどん体が冷えてくる。
警察に救助を求めようとするも、携帯電話は圏外で使えない。
仕方無しに10mほど進んでは、フロントガラスの雪を手で払うということを繰り返し、何とか深夜になって山を抜けだした。
命からがら、予約しておいたホテルに着くと、時間に遅れたということで、ホテル側に予約を取り消されてしまっていた。
しかし、事情を話すと、一部屋だけ空いているということで、予定したいた部屋とは別の部屋をわれわれにあてがってくれた。
おそらく、めったに予約の入らないVIPルームを、通常の料金であてがってくれたのであろう。
あんな豪華な部屋に止まったのは、生まれて初めてであった。
■ 日本海側が「雪国」となる理由
少し話が脇道にそれたので、そろそろ本題に戻ろう。
私と弟は、たった一泊二日の旅で、雪との闘いに疲れ果ててしまったのだから、毎年、生活を守るために雪と格闘している雪国の人々のご苦労は、察するに余りある。
雪国では、冬になると、数メートルもの高さまで雪が積もる。
そのため、雪国の人々は、屋根の雪下ろしや道路の除雪等に、生活のかなりの部分を持っていかれる。
こうした場所は、青森の津軽、秋田、山形、新潟、北陸など、東北日本の日本海側に多い。
なぜ、日本海側は雪が多いのだろうか。
元地理教師である私の専門分野なので、簡単に解説したいと思う。
南方から対馬海流の流れ込む日本海は比較的暖かい海である。
しかし、冬の日本海の上空には、シベリアでとことん冷やされた北西季節風、いわゆる北風(きたかぜ)がビュウビュウ吹き寄せている。
つまり、日本海周辺は、日本海の影響で低空が暖かく、北風の影響で上空が冷たい状態になっている。
この状態、実は大気にとって、きわめて不安定な状態と言える。
お風呂にお湯を入れて放っておくと、上が暖かく、下が冷たい状態になることからもわかるように、大気や水は、上に行くほど暖かく、下に行くほど冷たい状態になろうとする性質を持っている。
そのため、日本海周辺では、低空の暖かい空気が、上方の冷たい空気よりも上へ移動しようとして、その時に、海から出てくる水蒸気がどんどん上方の北風へと運ばれるのである。
こうして、日本海から巻き上げられた水蒸気をたっぷり含んだ北風は、日本列島に到達すると、奥羽山脈や日本アルプスを越えようとして、上昇気流となる。
そのとき上昇気流に持ちあげられた水蒸気は、山の手前で急速に冷やされる。
なぜ、冷やされるのかは少し難しいので、あらかた次のように考えてもらいたい。
低い所にいた時は元気(熱)のあった水蒸気も、高い山を登りきる頃には、元気(熱)を失って冷えてしまうのだと。
こうして冷やされた水蒸気は山を越える前に雪雲となり、日本海側に、うんざりするほど大量の雪を降らせるのである。


デジカメ写真
季語ばなし
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ある夜、雪の音が聞こえたので障子を開けてみました。
窓のあちら側が、優しい雪明かりで満ちています。
なんとなくお茶もコーヒーもすする気になれなかった私は、白湯を汲んで炬燵に戻りました。
白湯を口に含みながら、雪の影の流れる窓を静かに眺めました。
しばらくすると、意識の奥底で碇が外れたように、ある思いが、ふと心の水面まで浮かび上がってきました。
おしゃべりが苦手なら無理をせず…
そのかわり、できるだけ笑いましょう…
なんだか、次の日から、少し楽になれたような気がします。
今夜も雪が降っています。
あの夜と同じように、白湯をすすりながら、雪の音を聞いています。
ぽつねんと白湯すする夜や雪の声 (凡茶)


デジカメ写真
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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屋根に積もって雪下ろしを強いたり、凍りついて道を滑りやすくする雪は、人々の生活を様々な形で制約します。
ですから、俳句にも、雪という季語から、「重々しさ」のようなものを引きだした作品が見られます。
渡し呼声もとゞかず雪の空 (雪朝)
呼=よぶ。 とゞかず=届かず。
是がまあつひの栖か雪五尺 (小林一茶)
是=これ。 栖=すみか。
雪国へ発つ人疎ら0番線 (凡茶)
疎ら=まばら。
上の句のうち、一茶のものは有名です。
継母とうまくいかず、幼くして江戸へ奉公に出た一茶は、長い間、父の遺産を継母と争うために、江戸と郷里である信濃の柏原を往来しました。
その遺産争いを経て、最後に自分の終いの住み家と決まった家が、高々と雪に埋もれているのを見て詠んだものが上の句です。
自分の身の上を嘲り笑っているようにも、どこかほっとしているようにも取れます。
雪五尺とは、およそ1.5mの積雪。
一茶の郷里柏原のある奥信濃では、これが当たり前の雪の量です。
さて、雪は厳しく、重々しいものであると同時に、雪月花として月や花と並び賞されるほど、美しいものでもあります。
ですから、美しく白い雪景色を詠んだ句、つまり雪の「けがれなさ」をめでた俳句は、読者の心を清々しくさせてくれます。
ながながと川一筋や雪の原 (野沢凡兆)
また、白さの奥にある雪の青いような冷たさは、「清冽さ」も人に感じさせます。
鮮き魚拾ひけり雪の中 (高井几董)
鮮き=あざらけき。
こんな「けがれなさ」「清冽さ」を持った雪ですから、時には人の心を弾ませたりもします。
つまり、雪には「うれしさ」を人から引き出す力もあります。
我が雪とおもへばかろし笠の上 (宝井其角)
落書きの豚の笑みたる小雪かな (凡茶)
しかし、時には人を心弾ませる雪も、縷々(るる)降り続くと、人々は皆家に籠ってしまい、辺りはすっかり静寂に包まれてしまいます。
俳句にも雪の「静かさ」を詠んだ作品が、とても多いようです。
蝋燭のうすき匂ひや窓の雪 (広瀬惟然)
蝋燭=ろうそく。
さくさくと藁喰ふ馬や夜の雪 (大伴大江丸)
藁=わら。
ぽつねんと白湯すする夜や雪の声 (凡茶)
そして、そんな雪の静かさは、時に得体のしれない「怖さ」を人に感じさせます。
ゆえに日本全国に雪女の伝説が残っているのではないでしょうか。
おそれのような感覚が伝わる俳句を紹介します。
ともしびを見れば風あり夜の雪 (大島蓼太)
昨日とは違ふ口紅雪の夜 (凡茶)
以上、雪という季語から、「重々しさ」「けがれなさ」「清冽さ」「うれしさ」「静かさ」「怖さ」を引き出している俳句を見てきました。
しかしながら、雪の持つキャラクターはこれだけではありません。
雪は、もっと様々な顔を持っています。
雪の中で覚えた感覚を、景色や物に上手に託して、表現していきたいものです。
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佳句が生まれる「俳句の形」 凡茶
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さて、俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
この本は、こうした佳句の生まれやすい美しい俳句の形を、読者の皆様に習得していただくことを目的としています。
なお、この本は、前著『書いて覚える俳句の形 縦書き版/横書き版』(既に販売終了)を、書き込み型テキストから「純粋な読み物」に改め、気軽に楽しめる形に書き変えて上梓したものです。
あちこち加筆・修正はしてあるものの、内容は重複する部分が多いので、すでに前著『書いて覚える俳句の形』をお持ちの方は、本著の新たな購入に際しては慎重に検討してください。
●Kindle本について
Kindle(キンドル)本とは、Amazonで購入できる電子書籍のことです。
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あるいは、紙のように読めて目に優しく、使い勝手も良い、Kindle専用の電子書籍リーダーで、快適に読むことも出来ます。
俳句の入口 〜作句の基本と楽しみ方 藤田湘子著
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■ 俳句はリズムである… 大切なことを教えてくれた一冊です。
つまり以前の私にとって、定型は約束事だから仕方なしに守る制約にすぎなかったのです。
しかし、この本を読んで、俳句は韻文であり、大切なのはリズムであることを知ると、定型、切れ字等の大切さが少しずつわかるようになっていきました。
「意味」から「音」へ!
私の俳句に対する意識を大きく変えてくれた一冊です。
季語めぐり 〜俳句歳時記〜 トップページへ
【冬の季語(天文)の最新記事】
大変参考になります。
是がまあつひの栖か栖雪五尺 一茶
栖雪五尺・・すみかがタイピングミスのようです。
ご指摘、ありがとうございました。
さっそく、タイピングミスを直させていただきました。