夕河鹿 河鹿宿 初河鹿
河鹿(かじか)

パソコン絵画
● 季語の意味・季語の解説
山地の渓流・湖など、水のきれいな所に棲む小型で灰褐色の蛙。
繁殖期の雄が雌を慕って鳴らす声が、雄鹿のそれと同様に澄んだ美しい音色であるため、河鹿の名が付けられた。
この美しい鳴き声は古くから和歌などに詠み込まれ、河鹿笛とも呼ばれる。
この季語は、夕河鹿(せつか)、河鹿宿など、他の語と組み合わせて俳句に用いられることも多い。
なお初河鹿とは、新緑の頃に初めて聴く河鹿の声のことで、特に清々しい印象がある。
ところで、同じくカジカと発音する秋の季語「鰍」もあるが、こちらは淡水魚で、両生類の「河鹿」とは全く異なる生き物。
鰍は金沢では「ごり」と呼ばれ、加賀料理の重要な食材となる。
● 季語随想
河鹿の雄が鳴らす妻恋の声は、様々な擬音語で表わされます。
・フィー、フィー
・ヒュルルルルル
・ヒョロヒョロ、ヒヒヒヒ
・ヒリヒリヒリヒリ
等々。
まだ、実際の河鹿の鳴き声を聞いたことがなかった頃、私はこれらの擬音語から自分なりに河鹿の鳴き声を想像し、清流のイメージと重ねて心地よい気分になっていました。
そして、実際に河鹿の鳴き声を耳にした時、確かにその調べは澄んで美しく、私の想像を全く裏切らないものでした。
想像していたものと実際とが違って、がっかりすることは人生よくありますが、河鹿の鳴き声に関しては、実際の声の方が、私の想像より清涼感のある素晴らしいものでした。
その時の河鹿笛を、あえて私なりの擬音語にしてみれば、次のような感じでしょうか。
・ヒュールリリリー、ヒュルリリリ、ヒョイヒョイヒョイヒョイ…
ただ、似ているとされる雄鹿のもの哀しい声とはかなり異なり、むしろ涼しげな蜩(ヒグラシ)の声に近いと言う印象を受けました。
読者の皆さんのうちで、まだ実際に河鹿の声を聞いたことの無い人は、実際に耳にするまで、あれこれ音を想像して楽しんでみてください。
それはそれで、実に心地よいひとときを得られます。
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
河鹿と聞くと、俳句をたしなんでいる人ならば、その澄んだ美しい鳴き声とともに、渓流のきよらかな水まで連想してくれます。
河鹿の俳句を作る時は、そのことを踏まえて一句を仕上げるようにしましょう。
要するに、「声が美しい」とか、「清らかな渓流で鳴いている」とか、そういうことをわざわざ説明しなくてもよいのです。
これらのことを踏まえて、次の三句を鑑賞してみて下さい。
磨崖仏河鹿鳴きつゝ暮れたまふ (水原秋桜子)
磨崖仏=まがいぶつ。そそり立つ岩壁に彫られた仏さま。
河鹿鳴くいつも人なき橋の上 (波多野爽波)
河鹿笛聞き湯上りの内緒酒 (凡茶)
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さて、俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
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この本は、
〔型・その1〕 季語(名詞)や/中七/名詞
〔型・その2〕 上五/〜や/季語(名詞)
〔型・その3〕 上五/中七/季語(名詞)かな
〔型・その4〕 季語/中七/動詞+けり
の4つの型を、俳句を上達させる基本の型として、徹底的に読者に指導してくれます。
これらをしっかり身につけると、どこに出しても恥ずかしくない俳句を詠めるようになるでしょう。
王道の俳句を目指す人も、型にとらわれない斬新な俳句を目指す人も、一度は読んでおきたい名著です。
俳句の宇宙 長谷川櫂著
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■ 俳句は深くて、面白いなあ… 心からそう思えた本でした!
この章を読み、俳句の「切れ」を「間」と捉え、その「間」をじっくり味わおうとするようになってから、既に目にしていた名句が、それまでとは違って見えてくるようになりました。
また、第七章「宇宙について」も、面白くてあっという間に読んでしまいました。
この章で、「造化」というものに関する著者の考え方を読んでから、芭蕉の時代の句に接する際は、その句が生み出される場としての「造化」というものを読み取ってみようと意識するようになりました。
もちろん、私ごときが読み取ろうと思って読み取れるような浅いものではないのですが…
とにかくこの本は、
「自分が足を踏み入れた俳句の世界は、どこまでも深いんだなあ。そして、深みに潜れば潜るほど、新しい面白みに接することができるんだなあ… 」
そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。
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