雪解(ゆきどけ) (春の季語:地理)

     雪解(ゆきどけ・ゆきげ) 雪消(ゆきげ) 雪解く
     雪解道(ゆきげみち) 雪解水(ゆきげみず)
     雪解川(ゆきげがわ) 雪解風(ゆきげかぜ)
     雪解雫(ゆきげしずく) 雪雫(ゆきしずく)

13春の季語・地理ー雪解け.jpg
        パソコン絵画


● 季語の意味・季語の解説

 雪国に春が訪れ、冬の間に降り積もった雪がとけていくことを雪解(ゆきどけ)と言う。

 雪解は雪融けと表記することも可能であるが、俳句においてはもっぱら「雪解」の方が用いられてきた。
 やはり、豪雪地帯における積雪の不便さからの解放感は、雪解と表記しなければ表現できない。

 雪解は「ゆきげ」と読むこともできる。
 ゆえに、雪解道(ゆきげみち)、雪解水(ゆきげみず)、雪解川(ゆきげがわ)、雪解風(ゆきげかぜ)などのように、他の語とくっつけて用いることができ楽しい。

  月光の休まず照らす雪解川 (飯田龍太)

 雪解雫(ゆきげしずく)、雪雫(ゆきしずく)は、屋根などの上に積もっていた雪が融け、したたり落ちる様子を指す。
 水滴が地面を叩く音は、雪解けの解放感をさらに高める。

  にぎはしき雪解雫の伽藍かな (阿波野青畝)


● 季語随想

 私の祖母は二人とも製糸工場の女工だった。

 父方の祖母も、母方の祖母も、腕の立つ糸取りであったと聞く。

 二人の祖母は、子どもたち、すなわち私の父、母を蚕のさなぎの佃煮で育てた。

 繭から生糸を取った後に残ったさなぎだ。

 貧しかった時代、蚕のさなぎは養蚕地帯の子どもたちの重要なタンパク源であった。

 私も、幼いころから蚕のさなぎを食べて育った。

 最近、昆虫食文化をゲテモノ食のように取り上げる安易なテレビ番組を目にすることがある。
 
 タレントたちに昆虫の料理を食べさせ、嫌がらせて楽しむような、心ない番組だ。

 そういう番組を見ると、さなぎで子どもらをたくましく育て上げた祖母たちの、一生懸命な日常を嘲笑されたような気がして、心が痛む。

 それはさておき、二人の祖母のうち、母方の祖母が他界したのは、晩冬の大雪の降る日であった。

 その時、私は大学に修士論文を提出する時期で、遠く離れた郷里に戻り、祖母の葬儀に参列することができなかった。

 私が郷里に戻って祖母に線香を立てられたのは、それから数週間後であった。

 春になってもなかなか融けずに残っていた高冷地の雪を、やわらかな春の雨が融かし始めた頃だった。

  糸取りの祖母逝きにけり雪解雨 (凡茶)

 雪解雨という表現は、私の手元にある歳時記には載っていないが、私の俳句の師は、この句を高く評価して下さった。

 女工の孫としても、俳人としても忘れられない一句となった。


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 雪解(ゆきどけ)という季語は、俳人に春到来の喜びに満ちた俳句を詠ませます。

  雪解田に空より青き空のあり (篠原梵)

  雪解や安曇の里の道祖神 (凡茶)

 雪解の解放感は人の心を弾ませ、俳句にも躍動感があふれます。

  雪とけて村一ぱいの子ども哉 (小林一茶)
      哉=かな。

 そして、清冽な雪解け水を集めて流れる雪解川(ゆきげがわ)を俳句に詠むと、躍動感に凛とした趣きも加わります。

  雪解川名山けづる響かな (前田普羅)

 また、春の一時期にしか見られない雪解水(ゆきげみず)には、他の水とは次元の違う清らかさ、尊さとも言い換えられそうな清らかさを感じます。

  光堂より一筋の雪解水 (有馬朗人)


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posted by 凡茶 at 02:06 | Comment(3) | 春の季語(地理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
凡茶さま、初めまして。

「俳句」、「歳時記」で検索したら、こちらへたどり着きました。ドイツ在住なのですが、半年ほど前くらいから、俳句に興味を持つようになりました。手元には、俳句関係の本もなければ、俳句を詠む仲間もいないので、インターネットで、色々な情報を検索しているところでした。

凡茶さんのリンクですが、とても素敵です!お地蔵様に雪山の背景、また、青い空の色がとても映えています。

4月末の里帰りには、歳時記の辞典を購入する予定でいましたので、カシオの電子辞書を見てビックリ致しました。重量を気にせず、バックに入れることができるとあれば、
買わずにはいられないです(笑)。

俳句や短歌は、自分にとりまして、これまでは、敷居が高く、無縁の分野だと思っていたのですが、あるきっかけが縁で、自分にも俳句が詠めたらいいなあ。。と思うようになりました。本当に自分自身でも不思議です。

日本の書店でも、俳句のコーナーに寄ったことがなかったのですが、今では、早く立ち寄ってみたくて仕方がありません。インターネットでも注文はできるのでしょうが、やはり、手にとって色々な本を覗いてみたいと思っているところです。

辞書のご紹介、色々な本のご紹介、有難う御座いました。しっかりとメモをさせて頂きました。

すみません、長々とコメントしてしまい、大変失礼致しました。最後に拙い私の一句を添えさせて頂きます。

  霰舞い自由リズムで乱れ打ち
Posted by 茜 at 2012年02月14日 03:34
茜さま、心のこもったコメント、ありがとうございました。
ドイツは霰が舞ったのですか。
日本は一日中霙(みぞれ)でした。

  みぞれ傘おもたくさして古書屋街
Posted by 凡茶 at 2012年02月15日 03:51
現在77歳の爺ですが5年ほど前に、村にある俳句会に入れてもらいました。若い頃は農民運動や社会運動の活動をしていましたが 写真の趣味が膨らんで写真と俳句を合体させることを思いつき、俳句の不足しているところを写真で補い、写真の説明文代わりに俳句を写真に書き込み楽しんでいます。このコメントがどこに届くかも分からないままキーボード叩いています
Posted by 桜庭 義也 at 2013年11月12日 21:27