木の芽(このめ) (春の季語:植物)

     このめ きのめ 名木の芽(なのきのめ)
     木の芽時 木の芽月 木の芽道 木の芽山
     木の芽風 芽ぐむ 芽吹く(めぶく)
     芽吹き(めぶき) 芽吹山 木の芽張る
     柳の芽 芽柳
  
木の芽
17春の季語・植物・木の芽@.jpg
        デジカメ写真


● 季語の意味・季語の解説

 春になり、木々に萌え出る新芽のことを「木の芽」という。

 読み方であるが、一般の木々に萌え立つものを指す時は、このめと読むことが多い。

 一方、山椒の芽を指す場合は、きのめと読むことが多い。

 よって、山椒の芽を使った料理である「木の芽味噌」や「木の芽和え」は、「きのめみそ」「きのめあえ」と読むのが普通である。

 また、歳時記には名木の芽(なのきのめ)という副題が載っているが、これは樹種によって、楓の芽、額の芽、桐の芽、桑の芽、蔦の芽、朴の芽、林檎の芽などのように用いると言う意味である。

  額の芽の珠の如きがほぐれそむ (水原秋櫻子)
      額の芽=額紫陽花(がくあじさい)の芽。 珠=たま。

  山羊の仔を追ひかけ抱くや林檎の芽 (松本たかし)

 さて、木の芽が次々と吹く頃を木の芽時と言う。

  夜の色に暮れゆく海や木の芽時 (原石鼎)

 樹種によって芽吹く時期は異なるため、木の芽時は三春(初春・仲春・晩春)にわたるが、特に多くの木々が盛んに芽吹く陰暦二月を木の芽月と呼ぶ。

 木の芽という季語は、木の芽道木の芽山木の芽風のように、別の語と結びつけて用いることができる。
 いろいろな組合せを試してもらいたい。

  ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道 (中村草田男)

  抱合の神をかくして木の芽山 (森澄雄)
      抱合=はうごう(ほうごう)。抱き合うこと。

  窯の熱パンに残れり木の芽風 (凡茶)

 また、芽ぐむ芽吹く(めぶく)、芽吹き(めぶき)、木の芽張るの形で、この季語を用いることにも慣れてもらいたい。

  芽ぐむかと大きな幹を撫でめぐり (阿波野青畝)

  大木の芽ぶかんとするしづかなり (長谷川素逝)

  一旦は赤になる気で芽吹きをり (後藤比奈夫)

 なお、柳の芽芽柳)は、木の芽の中でも特に美しいとされ、いにしえより春の風物の代表格とされてきた。

  芽柳に焦都やはらぎそめむとす (阿波野青畝)

 次の写真は、湖畔の芽柳を撮影したものである。

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● 季語随想

 高校教師の職を退いてから、受験生の答え合わせのために、大学入試の模範解答を書く仕事に携わるようになった。

 そのため、大学入試の季節にあたる2月から3月は、忙しさのため、ほとんど外出できなくなる。
 今年もそうだった。

 先日、模範解答の執筆から解放され、久しぶりに外を散歩すると、あたりの景色がすっかり変わってしまっていた。

 雪が解け、日の光が強まり、空が明るくなり、葉を落として裸になっていた木々がみな芽吹いていた。

 2か月前とはまるで別世界のようだ。

 あまりの気持ちよさに、年甲斐もなく、徒歩で1時間以上かけて、若者たちで溢れかえる街まで足を延ばしてみることにした。

 街に着くとパンの焼けるいい匂いがする。

 匂いの方を振り向くと、お洒落な服装の女の子たちがパン屋の前に行列を作っている。

 このおじさんも女の子たちの列に加わり、そのパンを買うことにした。

 やさしい女の子たちばかりで、この場違いな存在をニヤニヤ笑って見るようなことはしない。

 どの子も気にならないふりをして、自然におしゃべりをしてくれていた。

 さて、無事にパンを買った私は、木の芽をびっしりつけた街路樹の横の木製ベンチに腰かけた。

 かふりとパンをかじると、窯(かま)の熱がまだ残っていて、焼きたての香ばしい熱気が鼻腔をくすぐった。

 このおじさんの贅沢と言えば江戸前寿司だが、この焼きたての温かいパンが、それに負けないくらい贅沢な食べもののように思えた。

 パンを食べ終え、胃に温もりを感じ楽しんでいると、それまで感じなかった木の芽の匂いを鼻が嗅ぎ分けていることに気付いた。

 嗅覚が、風の中から、敏感に木の芽の放つ瑞々しい匂いを感じ取るようになっている。

 どうやら一時的に五感が若返ったようだ。

 たまには寿司屋のつけ台ではなく、若者の行き交う街路のベンチで贅沢な時間を過ごしてみるのも、アンチエイジングになるようだ。

 恥ずかしがらずに若者の中へ飛び込んでみると、意外な幸せを発見できることもあるようだ。 

  窯の熱パンに残れり木の芽風 (凡茶)

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● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 木の芽という季語は、俳句を読む者に、冬から春へ季節が移ろう際の開放感を再体験させてくれる季語です。

 寒さでこわばっていた心がほぐれて弾力を取り戻し、ピョンピョンと弾みだすような感覚を、俳句で表現してみましょう。

  芽ぐみたる枝賑はしや影法師 (富安風生)

  みどり子のまばたくたびに木の芽増え (飯田龍太)

  榛芽吹き心は湧くにまかせたり (細見綾子)

  教へ子に逢引き見られ芽吹山 (凡茶)

 また、木の芽という季語は光との相性が良いようです。

 俳句の中に、上手に光を描いて見ましょう。

  あけぼのの白き雨ふる木の芽かな (日野草城)

  海照ると芽吹きたらずや雑木山 (篠田悌二郎)

  明るさに径うすれゆく芽吹山 (能村登四郎)

 最後に、次の二句を見て下さい。

  骨柴の刈られながらも木の芽かな (野沢凡兆)

  隠岐や今木の芽をかこむ怒涛かな (加藤楸邨)

 これらの名句からは、小さな木の芽の持つ、けなげで、強靭な生命力を感じ取ることができます。

 筆者も、このような「いのち」を感じる句を詠んでみたいものです。

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posted by 凡茶 at 05:39 | Comment(1) | 春の季語(植物) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
興味深く拝読しております。お人柄もしのばれます。お忙しいと思いますが、ぽつぽつとでも長く継続頂くことを楽しみにしてます。
Posted by 久 at 2014年01月29日 22:22