草餅 (春の季語:生活)

     草大福 草の餅 蓬餅(よもぎもち)
     母子餅(ほうこもち)

草餅
14春の季語・生活・草餅.jpg
        デジカメ写真


● 季語の意味・季語の解説

 春、野や道端に生えるまだ柔らかい蓬(よもぎ)を摘み取り、茹でて刻んで餅につきこんだものを草餅という。

 もち米でなく、しん粉(乾かしたうるち米をひいた粉)から作ることもある。

  おらが世やそこらの草も餅になる (小林一茶)

 みずみずしい緑色と、清々しく、かつ、鄙びた趣のある香りを楽しむが、餡子を包み込んだ草大福の人気が特に高い。

 俳人は、草の餅蓬餅(よもぎもち)という表現も好んで用いる。

 なお、草餅には、蓬ではなく母子草(ははこぐさ・ほうこぐさ)をつきこんだものもあり、母子餅(ほうこもち)と呼ばれる。

 母子草とは、春の七草の御形(ごぎょう)のことで、香りの強さでは蓬に劣るものの、粘り気のある食感の良い餅ができる。
 旧暦三月三日によく作られた。

  言葉にも母子餅とは母恋し (富安風生)


● 自句自解

 ある地方の温泉施設の傍らに物産館を見つけた。

 小さな店がいくつも出店していて、思い思いに地場産品を売っている。

 そのうちの一つが、えごま味噌を和えた懐かしい餅を売っていたので買い求め、その場で食べることにした。

 食べながら味を褒めてやると、店のおばちゃんが、どうしても草餅の味も見てほしいという。

 なんでも摘んだばかりの蓬をたっぷり使って作った自信作らしい。

 それほどのお薦め品ならと、草餅の方も味わってみることにし、実際旨かったので、少し大げさに褒めてやった。

 全力疾走のあと草むらに倒れこんだ時に嗅ぐ草の匂いに似た、鮮烈な香気が印象に残っている。

 食べ終えて、会計を済ますべく千円札を渡すと、釣銭用の小銭を入れた箱をジャラジャラと揺すりながら、おばちゃんが困った顔をしている。

 どうしたのかと尋ねると、十円玉を切らしてしまったから、五円玉でお釣りを渡してもよいかとすまなそうに言う。

 私は、五円玉をいっぱいもらった方が、またこの草餅を味わえる「ご縁」が生まれていいんじゃないかと言って、笑って釣銭を受け取った。

  釣銭に五円四枚草餅屋 (凡茶)

 今年の春、このやりとりのことを思い出し、同じ物産館をもう一度訪れてみた。

 あの時のおばちゃんは少し歳をとったが、まだ元気に働いている。

 でも、どうやら私のことなど全く覚えてない様子だ。

 初対面を装ってお薦めの品は何かと訪ねてみたところ、笑顔で草餅だと答え、あの時と同じ様に草餅の自慢を始めた。


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

■ 色について

 草餅の緑色は、褐色(こげ茶色)との相性が良いようです。

  草餅を焼く天平の色に焼く (有馬朗人)
      天平=てんぴょう。奈良時代、聖武天皇の年号。仏教文化が栄えた。

 ですから、歴史的建造物、古びた家等、褐色の多い空間の草餅を詠むと、その清々しい緑が映えます。

  大仏に草餅あげて戻りけり (正岡子規)

  草餅や帝釈天へ茶屋櫛比 (水原秋櫻子)
      櫛比=しっぴ。櫛(くし)の歯のように隙間なく並ぶこと。

  草餅の歯につめたしや城下町 (沢木欣一)

 次の俳句でも、焼けていく時の褐色と、自然が生み出す命の緑が、力強く対比されていると思います。

  父を焼き師を焼き蓬餅あをし (黒田杏子)

■ やさしさについて

 草餅は飾り立てられた雅やかな菓子ではありません。
 鄙びた素朴な菓子です。

 しかし、蓬を摘む、茹でて刻む、餅米と一緒につく、形よく丸めるといった手間をかけて作られる真心のこもった菓子です。

 作り手のやさしさがたっぷり込められた菓子と言えます。

 ゆえに、草餅という季語は、やさしさを俳句に醸し出します。

 次の俳句には、息苦しさやせわしさの無いやさしい空間と時間が、草餅という季語を用いることによって描かれています。

  草餅や野川に流す袂草 (芝不器男)
      袂草=たもとぐさ。袂にたまった草。

  雨はじく傘過ぎゆけり草餅屋 (桂信子)

  釣銭に五円四枚草餅屋 (凡茶)

 また、次の俳句には、人の心のやさしさが、直接的に描かれています。

  草餅や片手は犬を撫でながら (小林一茶)

  子をおもふ憶良の歌や蓬餅 (竹下しづの女)
      憶良=山上憶良(やまのうえの おくら)。万葉歌人。

  帰省子に朝一臼の蓬餅 (松村蒼石)

■ 母について

 幼い頃、母に草餅を拵えてもらった経験のある人にとっては、草餅が母を象徴する食べ物になることもあります。

  草餅の濃きも淡きも母つくる (山口青邨)

  蓬餅母といふもの妻にはなし (安住敦)



≪おすすめの本・商品≫

カラー版 新日本大歳時記 愛蔵版
==============================
■ 写真・絵の豊富な大歳時記です!


 『カラー版 新日本大歳時記』は、かつて春・夏・秋・冬・新年の全5巻に分けて発売され、大ベストセラーとなった歳時記です。

 “愛蔵版”は、その内容が一冊にまとめられたもので、購入しやすい値段となりました。

 この歳時記は、季語の詳しい解説や古今の名句に加え、写真や絵も豊富に掲載されていて、俳句の勉強になるのはもちろんのこと、鑑賞していて飽きない芸術性の高い一冊でもあります。

 私は、愛蔵版が出る前の全5巻を持っているのですが、この歳時記のおかげで俳人としてスキルアップし、かつ、日本の風土と文化の素晴らしさを再確認することができました。
 この歳時記は、私の俳句生活におけるかけがえのないパートナーであり、大切な財産でもあります。



歳時記の収録されている電子辞書
==============================
CASIO エクスワード XD-D6500BK


 以前は、句会・吟行といえば、辞書や歳時記などを持参しなければならず、これが結構重いものでした。

 しかし、今は歳時記入りの電子辞書が登場したおかげで、ずいぶん持ち物が軽くなりました。

 例えば、左の電子辞書には、次の歳時記が納められています。

合本俳句歳時記 四訂版
現代俳句歳時記
(春・夏・秋・冬・無季)
ホトトギス俳句季題便覧


 また、次のような収録コンテンツも、きっと俳句の実作、吟行に役立つでしょう。

広辞苑 第六版
全訳古語辞典 第三版
漢語林


 読めない漢字も手書きで検索できますし、俳人にとっては実にありがたいですね!

 この電子辞書には、他にも、百科事典や、日本と世界の文学作品(各1000作品)等、さまざまなコンテンツが収められていて、とにかく飽きません。
 世の中便利になったものです。




季語めぐり 〜俳句歳時記〜 トップページへ



posted by 凡茶 at 15:50 | Comment(0) | 春の季語(生活) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント