朝顔 (秋の季語:植物)

     朝顔・蕣・朝皃(あさがお) あさがほ
     アサガオ 牽牛花(けんぎゅうか)

朝顔
朝顔(季語めぐり俳句歳時記).jpg
        デジカメ写真


● 季語の意味・季語の解説

 竿、垣根、格子窓(こうしまど)などに左巻きの蔓(つる)を絡め、晩夏から初秋にかけて藍、紺、白、紅、空色などの花を咲かせる。

  去年の蔓に蕣かゝる垣根かな (山口素堂)
      去年=こぞ  蕣=あさがお

  蕣に垣ねさへなき住居かな (炭太祇)
      蕣=あさがお  住居=すまい

 アジア南部原産で、日本へは奈良時代から平安時代にかけて中国から輸入された。

 もともとは、牽牛子(ケンゴシ)と呼ばれる種から漢方薬をとるための植物であったが(ゆえに牽牛花という呼称が今も用いられる)、江戸時代に入ると、もっぱら鑑賞用に栽培されるようになった。

 それ以前は、桔梗(ききょう)や木槿(むくげ)が朝顔と呼ばれていたと考えられるが、牽牛子の花の美しさ、朝早く開いて昼前にはしぼんでしまう儚さが日本人の心をとらえ、この花が朝顔と呼ばれるようになった。

 鑑賞花になってから速やかに庶民の日常に溶け込んだらしく、江戸時代から生活感あふれる句が多い。

  朝皃にほのかにのこる寝酒かな (杉山杉風)

  朝顔に釣瓶とられてもらひ水 (加賀千代女)


● 季語随想

 この朝顔の記事を書こうと歳時記をめくっていて、はっと気付いたことがある。

 それは、次の句を例句として扱っていない歳時記が増えてきたということである。

  朝顔に釣瓶とられてもらひ水 (加賀千代女)

 この句、人口に膾炙(かいしゃ)した句であるが、正岡子規に酷評されて以来、駄句であるとの評価を受けることが増えた。

 「朝顔の蔓(つる)が釣瓶に巻きついた。だから、取り除くのも可哀想なので、もらい水をした。」という、「だから」「なので」の入る説明的で理屈っぽい句だとする評価が最も目につく。

 また、作者が自分自身の優しさを読者に示している、朝顔の擬人化が安易である、といった評価も多いように思う。

 私は、はじめにこの句を批判した子規は、やはり、たいしたものだと思う。

 それまで世間から名句との評価を受けてきた作品を、自分の価値観と美意識に基づいて堂々と批判してみせた子規の姿勢は見習いたい。

 しかし、子規以降にこの句を批判した人々は、子規による酷評の影響を受けずに、自分自身が受けた素直な印象でこれを評価することが出来ていたのだろうか。

 子規の評価を疑った上でこの句と向き合い、子規の主張に影響されることなく評価を下したのならよいのだが、「子規が酷評するのだから、きっとこれは佳句とは言い難い」というような前提で句に接してしまった人も多いのではないだろうか。

 最近の政治と世論の関係を見ていると、自分の意見だけが正しいわけではないと自覚し、中立的な立場から柔らかくものをいう政治家よりも、自分の意見が絶対に正しいというムードを漂わせ、力強く(時には攻撃的に)ものをいう政治家の方に、民衆の支持がわっと押し寄せている。

 強い主張に接すると、それをそのまま自分の主張として受け入れてしまうのは、人の持つ性(さが)なのかもしれない。

 少し話がわき道にそれたが……。

 とにかく、私は、この句を駄句の典型例のように扱う記述を目にするたびに、違和感を抱いてきた一人である。

 人情あふれる江戸時代の市井(しせい)。

 その市井に漂い始める朝餉の香り。

 人に、朝顔をそっとしておきたいと思わせる、初秋の朝の落ち着き。

 指で触れただけで染みたような傷が付いてしまう朝顔の花弁のかよわさ。

 多くの批評家によって蛇足であるとされてきた座五の「もらひ水」は、実は、こうした時空・感触をより強く連想させてくれる、極めて重要で、外すことのできない5字なのではないかと私は思う。

 少なくともこの句、歳時記に載せるまでもない句であるとは、私は思わない。

 後世に伝えなくてもよい句であるとは、どうしても思えない。


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 朝顔には、紺、藍、紫、白、紅、ピンク、空色など、様々な色のものがあります。

 ただし、朝顔の色に焦点を定めた俳句の多くは、紺または藍の朝顔を素材としているようです。

 紺や藍の持つ落着きと深みが、日本人の心を捉えるのでしょう。

  朝がほや一輪深き淵の色 (与謝蕪村)

  朝顔の紺の彼方の月日かな (石田波郷)

  堪ゆることばかり朝顔日々に紺 (橋本多佳子)

  朝顔の藍やどこまで奈良の町 (加藤楸邨)

 上の楸邨の俳句を読んでいただけるとわかると思うのですが、この朝顔の紺・藍は、長い歴史を経て風格を帯びた古い町の風景と、よく調和するようです。

  朝顔や文士気取りで小京都 (凡茶)

 また、朝顔の紺・藍は、まだ光の弱い早朝の空の灰紫色と、本当に相性の良い色だと思います。

  朝顔や濁り初めたる市の空 (杉田久女)
     初め=そめ

  朝顔や一本の塔失せし空 (凡茶)

 さて、朝顔は、江戸時代に鑑賞花となると速やかに市井に普及し、庶民の日常風景の中に溶け込みました。

 そのため、朝顔は、生活感のある、人間臭い俳句を詠むのに適した季語となっています。

  郵便の来て足る心朝顔に (富田木歩)

  朝顔の庭より小鯵届けけり (永井龍男)

  朝顔やすでにきのふとなりしこと (鈴木真砂女)

 また、朝早く開いて昼前にはしぼんでしまう朝顔は、儚さ、寂しさを象徴し、時には人の死を意識させる花としても、俳句に詠まれます。

  朝顔やおもひを遂げしごとしぼむ (日野草城)

  朝顔に手をくれておく別れかな (富安風生)

  朝顔や百たび訪はば母死なむ (永田耕衣)
      百=「もも」と読む。

  朝顔や子でありし日は終りし筈 (中村草田男)
      筈=はず

  朝顔や掃除終れば誰も居ず (中村汀女)

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posted by 凡茶 at 04:14 | Comment(0) | 秋の季語(植物) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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