
パソコン絵画
● 季語の意味・季語の解説
春や夏のよく晴れた日、舗装された道路や草原などに、実際にはない水面のようなものが見えることがる。
そしてその場所に近づこうとすると、水面もまた先の方へ移ってしまい、まるで逃げられているような感覚になる。
このような現象を逃水(にげみず)と言う。
逃水を追ひて岬の端に佇つ (福田甲子雄)
端=はな。 佇つ=たつ。
強い日差しで路面・地面が熱せられると、地表付近の空気が温まって膨張し、密度が薄くなる。
すると、密度の薄い空気の層の上に、密度の濃い空気の層が乗るような形になり、二つの層の境界面で光が反射したり、曲がったりし(屈折したりし)、まるで水面が光を弾いているかのように見る者の目に映る。
これが逃水の正体。
古くから逃水は、平坦な土地の広がる武蔵野の名物とされ、古歌にも詠まれてきた。
あづま路にありといふなる逃げ水のにげのがれても世を過ぐすかな (源俊頼)
次の俳句は、このことを踏まえたもの。
逃水や武蔵の国といま言はず (黒坂紫陽子)
● 自句自解
ジョン・レノンの歌をこよなく愛する友がいる。
普段はいたって寡黙であるが、ジョン・レノンの話をする時だけは饒舌になる。
学生時代、そんな彼に、「僕もジョン・レノンの歌を聴いてみたいから、お勧めの曲があったら、いくつか教えてくれないか」と、尋ねてみたことがある。
当方は、その場で二、三曲も思いついた歌を教えてもらえれば十分だったのだが、彼は「何日か待ってくれないか」と、その時は話を持ち帰った。
数日後、彼は、いくつかのお気に入りの歌について、歌詞に関する自身の見解や、個々の歌が生み出された背景などを詳細に綴ったノートを添えて、ジョンの歌の入ったカセットテープを私に譲ってくれた。
さすがの私もこれには感激し、
「こんなにしてくれて本当にありがとう。でも、君の大事なカセットテープまで貰い受けるわけにはいかない」と言ったのだが、彼はいつもの穏やかな表情で、
「一人でもジョンの歌を聴いてくれる人が増えれば、俺は嬉しいんだ…」と返してきた。
あれからもう、長い年月を経たのだが、彼のプレゼントしてくれたカセットテープを、今でも私は大切に扱い、たまに聴いたりしている。
次の句は、東京へ向かうドライブの際、このテープを聴きながら詠んだものである。
逃水を東京へ押しレノン聴く (凡茶)
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
逃水は遠くまで見渡せる長い道の上によく現れるので、空間的な広がりを表現するのに適した季語です。
逃げ水や麦はみどりの畝つめて (岡本まち子)
逃水やゆきゆきてなほ石狩野 (小川杜子)
逃水を東京へ押しレノン聴く (凡茶)
また、足腰にこたえるような道のりの長さを読み手に伝えることもできます。
逃水や人を恃みて旅つづく (角川源義)
恃みて=たのみて。
逃水や驢馬にて運ぶ壺の水 (澤田緑生)
驢馬=ろば。
逃水の果て敦煌のありにけり (宇咲冬男)
敦煌=とんこう。シルクロードの要衝。
逃水は、追っても追っても決して辿り着くことができないため、到達できないものや、手に入れられないものの象徴として詠まれることも多いようです。
逃げ水を追ふ旅に似てわが一生 (能村登四郎)
逃水は亡き娘の現るる如くなり (角川照子)
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例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
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