田植 (夏の季語:生活)

     田植え 田植ゑ 田を植う
     早乙女(さおとめ・さをとめ) 田植女(たうえめ) 
     田植唄 早乙女唄 田植組 寄合田植(よりあいたうえ)
     立人(たちうど) 田人(たうど)
     田主(たぬし) 太郎次(たろうじ)
     田植飯(たうえめし) 田植肴(たうえざかな)
     田下駄 田植笠 田植蓑 田植布子(たうえぬのこ)
     花田植 大田植


早乙女による田植え
24夏の季語・生活・田植え【イラスト】.jpg
        パソコン絵画


● 季語の意味・季語の解説

 日本は古くから稲作を生活と文化の基礎としてきた国であり、瑞穂(みずほ)の国という美称を持つ。

 その瑞穂の国において、田植えは稲刈りと並ぶ重要な作業であり、また、神事でもある。

 ゆえに田植と言う季語には、多くの副題が存在する。
 いくつか紹介しよう。

 早乙女(さおとめ・さをとめ)は、苗代で育てた早苗を本田に植え付ける女衆である。今でも神事として行われる田植では、手甲・脚絆に赤いたすきをかけ、菅の笠を被った昔ながらの早乙女姿を見ることができる。

  早乙女の見に行く宮の鏡かな (池西言水)

  早乙女の夕べの水に散らばりて (高野素十)

  早乙女の裾を下して羞ぢらへり (山口誓子)

 多くの歳時記では、早乙女を田植から独立した季語として扱っている。

 田植女(たうえめ)は、田植をする女、田植のために雇った女などを広く指す言葉である。早乙女という季語からは「女性の艶」を感じるが、田植女からは、汗水たらして田を植える女たちの息づかいを感じる。

  田植女のころびて独りかへりけり (加藤暁台)

  田植女の手にひらひらと鮒あたり (高野素十)

  田植女の誰も火がまつ家路あり (福田甲子雄)

 田植唄・早乙女唄は、豊作を祈願して田の神に捧げる唄である。田植唄・早乙女唄には、田植の仕事を楽しく感じさせる効果もあろう。

  風流の初やおくの田植うた (松尾芭蕉)
      初=はじめ。

  早乙女やよごれぬものは歌ばかり (小西来山)

  勿体なや昼寝して聞く田植唄 (小林一茶)
      勿体なや=もたいなや。

 芭蕉の句は、奥の細道の中の作品。
 白河の関を越えて陸奥に入った所で「ああ、いよいよ陸奥の旅がはじまるなあ」と、感慨に浸って詠んだ句。

 田植組・寄合田植は、協同で田植を行う数戸から数十個よりなる一組。かつての農村社会では、田植は集落ぐるみで行う作業であった。

 立人(たちうど)は、かがんで苗を植える女衆(早乙女・田植女)に対し、代かき(水を張った田の土くれを砕き均す作業)や苗打ち(田へ苗束を投げて配る作業)などの力仕事を立って行う男衆を指す。

 田主(たあるじ)は、田人(たうど:早乙女や立人など、実際に田植の作業に従事する人々)に対し、田植を監督する立場の者で、田植唄の中では訛って太郎次(たろうじ)などと呼ばれる。

 田植飯(たうえめし)は、年神に供えた割木を薪にして焚いた飯を田の神と共に食べる行事であり、豊作祈願の神事である。「おなり」「おなりど」などと呼ばれる美しい装いの女性が田まで食事を運ぶ。

 田植肴(たうえさかな)は、田植飯に添えた肴や海藻などの塩蔵品・乾物。

 田下駄(たげた)は、水田の泥に足が沈まないように工夫された面積の広い下駄であり、これだけで夏の季語となる。

 田植布子(たうえぬのこ)は、降雨などで肌寒い時に着る綿の入った防寒衣である。

 季語:田植の副題として上に掲げた多くの語は、機械化によって農作業が家族単位で行われるようになるのに従い、実際には使われなくなってきているが、中国山地などで伝承されている花田植・大田植(笛、太鼓、鉦などを鳴らしながら村ぐるみで行う田植の行事)には、古い形式が残されている。


● 自句自解

 ずいぶん前に次のような俳句を作り、はじめは結構気に入っていた。

   米軍機刺さりゆく空田植飯

 しかし、この句を詠んだ当時の私は、田植飯が神饌、すなわち、田の神と人々が一緒にとる食事を指す言葉であるとは知らなかった。

 そのため、田植の場で休憩を兼ねて食べる弁当のようなイメージで、田植飯という季語を用いていた。

 田植飯という言葉の真の意味を知ってから上の句を読み返すと、やはり、自分が描きたかった世界を描けているとは思えない。

 そこで田植飯という座五を、田植笠や田植唄に置き換えてみたが、いまひとつピンと来ない。

 そんなわけでこの句は、不満の残る姿のまま、しばらく俳句手帳の中に放置されていた。

 しかし近年、俳句の作り方という姉妹サイトを書き始め、切字関連の記事を書くための勉強をしたためか、ここに来て、ようやく納得の一句に生まれ変わらせることができた。

  米軍機深空へ刺さる田植かな (凡茶)
      深空=みそら。

 「かな」という切字は、切れの直後のじんわりとした余韻が味わえて良い。


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 田植の風景を美しく詠んだ俳句は、読者を、初夏から仲夏にかけてのみずみずしい空気を吸ったあとのような、清々しい気分にさせてくれます。

  遠里や二筋三筋田植笠 (大島蓼太)

  やさしやな田を植るにも母の側 (炭太祇)
      植る=「ううる」と読む。側=そば。

  何もかも映りて加賀の田植かな (飴山實)

  山国に光いくまい田植すむ (鷲谷七菜子)

 一方、黙々と田を植える人々を詠んだ俳句、すなわち、生きる糧を得るために一生懸命働いている姿を詠んだ俳句からは、緊張感のようなものが伝わってきます。

  田を植ゑるしづかな音へ出でにけり (中村草田男)

  一日中一人湖北の田植かな (細見綾子)

  塔映りゐるを知らずに田を植うる (津田清子)

 また、水田の水や泥の感触が伝わってくるような俳句を詠めば、五感で楽しめる力強い作品に仕上がるでしょう。

  離別れたる身を踏み込んで田うゑかな (与謝蕪村)
      離別れたる=「さられたる」と読む。

  田植あと昼寝の蹠やはらかし (加藤楸邨)
      蹠=あうら。足の裏のこと。

  田を植ゑてあがるや泳ぎ着きし如 (橋本多佳子)

  ゴム靴を深々と刺し田植衆 (角川春樹)



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  ●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
  ●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)

 また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。 

  ●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
  ●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)

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posted by 凡茶 at 17:31 | Comment(0) | 夏の季語(生活) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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