鶴来る(つるきたる) (秋の季語:動物)

     鶴渡る(つるわたる) 渡り鶴(わたりづる)
     田鶴渡る(たづわたる) 

36秋の季語・動物・鶴渡る.jpg
        パソコン絵画


● 季語の意味・季語の解説

 10月頃、寒さが厳しくなり始める北方のシベリアから、日本に鶴が飛来する。

 鶴来るは、日本に鶴がやってきたという事実、あるいは、日本に鶴が飛んでくる姿を表現する季語であり、鶴渡るも同様である。

  鶴来る三羽は仔鶴中にして (山口青邨)

  火の山の晴れてうつつや鶴渡る (高井北杜)

 鶴と聞くと丹頂鶴(タンチョウヅル)を思い浮かべる人も多いかもしれないが、これは渡り鳥ではなく、一年を通して北海道の釧路湿原で過ごす留鳥である。

 したがって、鶴来る鶴渡るの季語を用いて詠まれた俳句に登場する鶴は、渡り鳥である鍋鶴(ナベヅル)、真鶴(マナヅル)などとなる。

 鹿児島県の出水平野(いずみへいや)、山口県の熊毛(くまげ)などが主な渡来地・越冬地であり、そのような場所では地元の人々により鶴が保護されてきた。

  鶴守のはがき一片鶴来ると (林十九楼)

  鶴来り鶴の番人就任す (清水諄子)

 出水平野では、田んぼに降り立つ鶴の姿をよく見かけるが、かつて和歌においては、鶴は田鶴(たづ)と表現された。現代俳句においても、田鶴渡るの表現は好んで用いられる。

  田鶴渡る十八日の月明に (勝俣一透)

  曳く脚のさやかにぞ田鶴わたるなり (大橋櫻坡子)

 なお、単に鶴とすれば冬の季語として扱われることが多い。また、シベリアへ帰る鶴を鶴帰ると詠めば、春の季語となる。


● 自句自解

 俳句を始めて間もない頃、がらくた、尿(しと)、糞(まり)…といった、卑俗な言葉も積極的に取り込んで芸術性の高い作品を生み出してしまうところに俳句という文芸の力強さがあると教わりました。

 以来、私も卑俗な事物をモチーフに多くの俳句を詠んできましたが、「ごみ」を句の中心に据えた次の句が、そうした諸作品の中で最も格調高い一句に仕上がったと自惚れています。

  尼寺の出したるごみや鶴渡る (凡茶)

 実はこの句、初めに「尼寺の出したるごみや」の上五・中七が出来上がり、座五に据える季語がなかなか定まりませんでした。

 何度も何度も歳時記をめくって「鶴渡る」の季語を見つけ、実際にこれを座五に据えたものを発表して高評価を得たときに、言葉と言葉の取り合わせの重要さ、そして面白さがわかったような気がします。

 季語は、俳句という一品料理の重要な素材であると同時に、全体の出来・不出来を左右する味付けにもなると強く自覚した思いでの句です。


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 鶴は群れで渡ってきますが、その形状・様子を的確に捉え、かつ、オリジナリティに満ちた言葉で表現できれば、一物仕立ての佳句となります。

  鶴わたる大群のいま大環に (皆吉爽雨)

  鶴の棹一しなひして飛べりけり (清崎敏郎)

 ここで鶴の棹は、鶴が棹(さお)のように一列になって渡ってくる様子を示しています。

 渡り鶴は秋の終わりが近いことを告げるようにやって来るため、「かなし」の情をまとう一句を仕上げるのに適しています。

  夕映えの雲より生れし鶴の棹 (今井つる女)
      生れし=あ・れし

  鶴渡るしんがりおつうかも知れぬ (前田沢子)

  尼寺の出したるごみや鶴渡る (凡茶)

 また、鶴は大柄で優美な形(なり)をしているため、その堂々たる飛翔・はばたきを詠むことで、力強く、豪壮な俳句を生み出すこともできます。

  大空の蒼さを羽摶ち鶴来たる (重永幽林)
      羽摶ち=は・うち



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 例えば、次の二句は、上五の名詞で一旦切り、座五の「けり」でも句末を切る形をしています。

  ●月天心貧しき町を通りけり  蕪村
  ●赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり  正岡子規

 次の二句は、形容詞の終止形で中七の後ろを切り、座五に名詞を据える形をしています。

  ●五月雨をあつめて早し最上川  芭蕉
  ●鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春  其角

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posted by 凡茶 at 17:55 | Comment(0) | 秋の季語(動物) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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