月 (秋の季語:天文)

     有明(ありあけ) 月白(つきしろ)

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        パソコン絵画


● 季語の意味・季語の解説

 月は一年中私たちを見守ってくれているが、季語として用いる場合は秋の季語となる。

 秋の夜空は湿り気が少なく澄んでおり、月がより清らかに見えるためだ。

 白居易が“雪月花時最憶君”(雪月花の時、最も君を憶ふ)と詠んで以来、東洋において秋の月は、春の花、冬の雪とともに、自然美を代表する景物とされてきた。

 満月とその前後の丸く太った月の明るさは、昼間の太陽以上に「光」の美しさを俳人に意識させる。

  月光を堰きとめてをる木戸あくる (上野泰)

  月明き浜に流木曳きしあと (上田五千石)

 月という季語の副題に有明(ありあけ)という語があるが、これは、空にまだ月が残っているのに、夜明けが訪れた状態を指す。

  有明の月になりけり母の影 (宝井其角)

 また、月白(つきしろ。月代とも書く)という副題は、月の出を前に、空がほんのり明らんできた状態を指し、それだけで独立した季語として扱われることもある。

  月白に色生るるもの消ゆるもの (後藤比奈夫)
      生るる=あるる。


● 季語随想

 太陽は時としてわれわれ人間に牙をむく。

 太陽がいつもより少し熱く燃えるだけで、われわれは猛暑に苦しめられ、

 太陽がいつもより少し己の放つエネルギーを減らすだけで、われわれは寒波に襲われ、かじかむ。

 それに対し、月は……


 月は、いつでもわれわれにやさしい。

 地上では、懲りもせず人間たちが憎しみ合い、罵り合い、脅し合い、煽り合い、奪い合っているが…

 月は、決して人間に牙をむかず、見捨てず、やわらかい光を注ぎ続けてくれている。

 黙って、やさしい光を注ぎ続けてくれている。


 でもね…、

 月は決して人間たちを罰したりはしないけれど…

 きっとひっそり泣いている。


 憎悪が膨れていく、こんな地球に寄り添いながら、

 人間たちには見えない涙を、静かに流している。

  老犬は吠ゆひつそりと月は泣く (凡茶)


● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方

 竹取物語のかぐや姫は、太陽でもなく、ほかの星々でもなく、月へと帰っていきました。

 天文学が発達していなかった大昔から、人類は、我々の暮らすこの地から最も近い場所に浮かぶ天体は月であるということを、直感的にわかっていたのだと思われます。

 それでも、われわれ人類は月に歩いてたどり着くことは出来ない…。

 次の三句は、そんな近いようで遠い、月との微妙な距離感を感じさせます。参考にしましょう。

  あの月をとつてくれろと泣く子かな (小林一茶)

  門を出て五十歩月に近づけり (細見綾子)

  月の人のひとりとならむ車椅子 (角川源義)

 月の光は、太陽のそれと比べやんわりと優しく、心が癒やされます。次の例句のうち、山頭火の作品は自由律俳句です。

  ほつと月がある東京に来てゐる (種田山頭火)

  月更くや読書しやすき無人駅 (凡茶)
      更く=ふく。夜が深くなる。

 淡い月の光は夜闇の中に幻想的な景をつくり出します。芸術映像や芸術写真のような俳句も詠んでみたいものです。

  藻をくゞって月下の魚となりにけり (長谷川かな女)

  一灯なく唐招提寺月明に (橋本多佳子)

 ただ、やはり、月の光は「ものかなしさ」を帯びています。私の愛する月の名句は、どれも月の持つ「ものかなしさ」を上手に作品に取り入れています。

  月天心貧しき町を通りけり (与謝蕪村)

  こんなよい月を一人で見て寝る (尾崎放哉)

  三日月がめそめそといる米の飯 (金子兜太)

 上の例句のうち、放哉の作品は自由律俳句です。



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  ●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
  ●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)

 また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。 

  ●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
  ●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)

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posted by 凡茶 at 09:58 | Comment(0) | 秋の季語(天文) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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