葡萄棚 マスカット

ナガノパープル(濃紫)とシャインマスカット(黄緑)。
ともに筆者の大好きなブドウ。
デジカメ写真
● 季語の意味・季語の解説
夏の暑さと乾きが厳しい地中海沿岸が原産地であり、イタリア、フランス、スペインなどの南ヨーロッパ諸国には、水はけの良い緩斜面を利用した広大な葡萄畑が見られる。
地中海と気候の似ているチリのサンティアゴ、南アフリカのケープタウン、オーストラリアのパース・アデレードの周辺も有名な葡萄産地である。
糖度が高いため醸(かも)しやすく、ワイン、バルサミコ酢の原料となる。
ブランデーは、醸造酒であるワインから作った蒸留酒。
日本酒(醸造酒)と米焼酎(蒸留酒)の関係に近い。
主産地の南ヨーロッパでは、支柱に添って垂直に伸びた幹から直接、葡萄を収穫する。
これに対し、湿気の多い日本では、湿った土との間(ま)を十分にとった葡萄棚を樹上に設けて蔓(つる)を絡ませ、そこから垂れ下がった葡萄を収穫する。
よって、次のような俳句が出来上がる。
葉洩日に碧玉透けし葡萄かな (杉田久女)
葡萄樹下木椅子は葡萄守のもの (橋本美代子)
いずれも日本の葡萄園の様子が目に浮かぶ優れた写生句。
● 自句自解
かつて南ヨーロッパでは、良質のワインを醸すために、村の娘さんたちによる葡萄踏みが盛大に行われた。
今も、儀式的にはなりつつあるが、その伝統が受け継がれている。
次は、筆者が若い頃に詠んだ葡萄踏みの句。
連山の生みし風浴び葡萄踏む
自信作のつもりで句会に出したが、あまり高い評価は得られなかった。
先輩に駄句となってしまった理由を尋ねると、「生む・浴びる・踏む」と動詞が三つも用いられており、韻文と言うより散文になっているとのことだった。
「一句の中の動詞は一つまでがベスト。多くても二つまで」とその時教えられた。
さて、低評価は受けたものの、この句どうにも捨てがたい。
連山から吹き寄せる清々しい風、その風を上半身に浴びながら下半身で感じる葡萄の触感、そんなものを端的に表現できたらと思い、以降、何度も修正をくりかえしてきた。
そうして最近になってようやく、次の形に至ることができた。
葡萄踏み連山の風届きけり (凡茶)
自著、佳句が生まれる「俳句の形」
着想から完成に至るまでに、おそらく20年以上かかった作品である。
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
葡萄の色は種類によって異なりますが、俳句で単に葡萄と用いられた場合、読者は濃紫・黒紫の葡萄を思い浮かべます。
その濃紫・黒紫を強調するために、黒葡萄という表現を用いる俳人も多いようです。
葡萄の艶のある黒光りを上手に表現できると、句会などで多くの票を集めるはずです。
亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄 (川端茅舎)
悪霊がきてざわめきぬ黒葡萄 (小澤克己)
漆黒の葡萄仏間に薫りをり (凡茶)
葡萄は糖分が多いため、あまり急いで食べると体に障ります。房から一粒ずつもいで、秋の夜長を楽しみながらゆっくり味わうのが良い果物です。
以下は、ゆっくりとした時の流れを感じさせる名句です。参考にして下さい。
葡萄食ふ一語一語の如くにて (中村草田男)
母の膝の葡萄をつまみ吾も食ふ (岸風三楼)
≪おすすめ・俳句の本≫
佳句が生まれる「俳句の形」 凡茶
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さて、俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
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