未草(ひつじぐさ) スイレン
デジカメ写真● 季語の意味・季語の解説 睡蓮(スイレン)は多年生の水草である。
切れ込みのある楕円形の葉を水面に浮かべ、その間に蓮(ハス)に似た花を咲かせる。
花は昼のさなかに開き、夕方になると閉じて、その後は睡ったようになる。
ゆえに睡蓮という名がつけられた。
分布域は広く、熱帯から温帯にかけての池沼に自生する。
また、古代エジプトの壁画から、栽培の歴史も長いことが知られている。
ナイル河の金の睡蓮ひらきけり (石原八束)
睡蓮の花の色は、赤、黄、紫など様々であるが、そうしたカラフルなものは全て鑑賞用の外来種であり、日本に古くから自生するものは小ぶりな白い花を咲かせる。
睡蓮の花言葉「純潔」がまさにふさわしい可憐な白い花である。
この日本の白い睡蓮は未の刻(午後二時)頃に開くことから、未草(ひつじぐさ)と呼ばれる。
山の池底なしと聞く未草 (稲畑汀子)
● 自句自解 若い頃、「
京鮓や雨を喜ぶ女の子」という俳句を雑誌に発表し、高名な先生方から厳しい評価をいただいたことがある。
「
雨を喜ぶ女の子」の中七・座五は良いが、「
京鮓」(きょうずし)という季語の選択が甘いという指摘だったと記憶している。
今振り返ればたしかにその通りであり、現在の私がこの句の批評を試みれば、その先生方と同じような評価を下すことになると思う。
ただ、当時の私は打たれ弱い青二才だったので、そこそこにプライドが傷つき、しばらくの間自分の俳句に自信を持てなくなってしまった。
そんなことがあってからしばらく経ったある日、私は睡蓮の咲く小さな池のほとりに来ていた。
そこで、雨に叩かれる水面をゆっくり眺めているうちに、なにか「!」と閃くものがあったような気がした。
“「
京鮓や雨を喜ぶ女の子」の「
京鮓」を、「
睡蓮」という季語に置き換えてみたらどうだろう…?”
こうして得られたのが次の一句である。
睡蓮や雨を喜ぶ女の子 (凡茶)
後日、結社誌にこれを投句すると、幸いにも高い評価を師からいただき、私のお気に入りの一句となった。
この出来事があって以来、俳人たちが「俳句を作った」という表現のかわりに、「俳句を得た」という表現を用いる理由がよくわかった気がする。
昔の人たちは、天地・万物を創造・化育する「造化」という力(存在)が、人々に詩歌や句を得させると考えたようだが、「作った!」という感触よりも、「得られた!」という感触の方が大きかった作品に、佳句は多いのかもしれない。
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方 睡蓮の学名「ニンフエア」は、「水辺の女神」という意味だそうです。
なるほど、睡蓮の花には、女神と呼ばれるにふさわしい存在感があります。
以下の俳句は、そんな睡蓮の「存在感」を詠んだ名句だと思います。
遠く咲く睡蓮ひとつ去りがたし (成瀬櫻桃子)
睡蓮のしばらく人を絶ちて紅し (深見けん二)
睡蓮の花までの距離思ひをり (桶笠文)
この睡蓮という花は雨との相性が良いようです。
紫陽花(あじさい)も雨との相性の良い季語ですが、睡蓮を季語に詠んだ俳句は、紫陽花の句以上に、雨の一粒一粒をはっきりと読者に感じさせてくれます。
睡蓮のすき間の水に雨の文 (富安風生)
文=「あや」と読む。水面に広がる波紋のこと。
睡蓮の源平咲きに日照雨かな (藤田湘子)
源平咲き=紅白の花が咲いている状態。赤が平氏、白が源氏の旗の色。
日照雨=そばへ(そばえ)と読む。
睡蓮や雨を喜ぶ女の子 (凡茶)
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例えば、次の名句は、いずれも
中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも
名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
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