白露 露の玉 露けし
露時雨(つゆしぐれ)

朝露
デジカメ写真● 季語の意味・季語の解説 秋、日差しが弱まり、夜が長くなると、地面や草葉がよく冷やされる。
すると、空気中の水蒸気がそれらに触れて凝結し、水滴となる。
それが露である。
露は日の光を反射して白く輝くため、
白露という表現がよく用いられる。
白露や茨の刺にひとつづゝ (与謝蕪村)
刺=とげ
白露に阿吽の旭さしにけり (川端茅舎)
白露や一詩生れて何か消ゆ (上田五千石)
また、顔を近くに寄せて一粒一粒を凝視すると、周囲の草木などが映り込んで実に美しく、あたかも宝玉のようである。
したがって、球状の露を、
露の玉という言葉で形容した俳句も多い。
草の葉を游びあるけよ露の玉 (服部嵐雪)
游び=あそび
露の玉蟻たぢたぢとなりにけり (川端茅舎)
蟻=あり。
原句において、たぢたぢの後半部分はくりかえし記号。 降りた露に濡れ、辺りが湿っぽくなった様は
露けしと表現される。
和歌においては、涙で瞳が濡れた状態を連想させる語として「露けし」が用いられてきたので、そのようなムードもどこかに感じながら使ってみたい。
生きるとは死なぬことにてつゆけしや (日野草城)
露けしや妻が着てゐる母のもの (細川加賀)
晩秋ともなると、草原などの広い土地が、一面露に覆われることもある。
そのような状態を、まるで時雨(しぐれ)が降ったあとのようであるため、
露時雨という。
露時雨は、歳時記によっては独立した季語として扱われる。
露しぐれ宇治を離れて路細し (三宅嘯山)
折りさして枝見る猿や露しぐれ (高桑闌更)
露しぐれ御寺に酔ひをさます夜か (加舎白雄)
● 季語随想 ページの冒頭に掲げた朝露の写真が撮れた時、二つの露の玉が、同じ夢を持ち、同じ空を見遣る友のように見えた。
微妙な距離感を保つ男女に見えても良かったはずだ。
にらみ合う一触即発の敵同士に見えても良かったはずだ。
逃げるこそ泥と、追う岡っ引に見えても良かったはずだ。
あるいは、二つの大きな露の玉の間にある小さな露の玉にも着目すれば、仲の良い三人の親子に見えても良かったはずだ。
それでも、二つの露の玉が友に見えたのは、ともに太陽を見据えるようにして、斉しい輝きを放っていたからだと思う。
かつて私にも、同志と呼べる友がいた。
同じ目標に向かって、一生懸命に汗を流してきた友がいた。
彼とは、私の未熟さが理由で別々の道を歩み始め、すっかり疎遠になってしまったが、かけがえのない友であったことを今更のように噛みしめている。
自分で撮った朝露の写真を見て、本当に大切にすべき人を大切にしてこなかったことへの悔いが、ぶり返している。
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方 次の二句は、輝き、透き通る露の玉にピントを合わせ、その美しさを強調しています。
いずれも暗誦しておきたい名句です。
芋の露連山影を正しうす (飯田蛇笏)
金剛の露ひとつぶや石の上 (川端茅舎)
次の二句は、ぎりぎりまでズームアップすることで、液体としての露の玉の振る舞いを生々しく感じさせる句となっています。
露ふたつ契りしのちも顫へをり (真鍋呉夫)
顫へ=ふるえ
露の玉工場ドスンと始まりぬ (凡茶)
次の三句は、一粒・二粒の露の玉ではなく、たくさんの露、無数の露が一体となって生み出す美を描いています。
白露にざぶとふみ込む烏哉 (小林一茶)
蔓踏んで一山の露動きけり (原石鼎)
一山=いっさん
ショパン弾き了へたるままの露万朶 (中村草田男)
了へ=おえ(終え)
万朶=ばんだ。多くの花をつけた枝のこと。
ところで、露という季語は、上の草田男の俳句の露万朶のように、他の語と組み合わせて用いると良い味を出すことがあります。
朝露、夜露、露の宿、露葎(葎=むぐら。生い茂る雑草のこと)、露燦々(燦々=さんさん。光輝くさま)などなど…。
読者の皆様も、露を使った様々な組合せにチャレンジして下さい。
錦木も暮れてまじるや露葎 (福永耕二)
子の初潮妻ささやけり露燦々 (能村登四郎)
さて、露は、日が少し高くなったり、風が吹いたりするだけで、あっけなく消え去ってしまいます。
したがって、儚いもの、哀愁を感じさせるものとして俳句に詠まれることも多いようです。
以下の名句を鑑賞してみて下さい。
露の世は露の世ながらさりながら (小林一茶)
白露や死んでゆく日も帯しめて (三橋鷹女)
露けさや天の深きを知る齢 (野見山朱鳥)
露の夜に生れて怺へきれず泣く (山口誓子)
怺へ=こらえ
上の四句のうち、一つ目の一茶の句は、歳をとってから授かった幼い娘が亡くなり、その悲しみから癒えないうちに詠まれたものです。
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さて、俳句には、読者の心に響く
美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも
中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも
名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
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