水つ洟(みずっぱな) はなみず(洟水・鼻水)
パソコン絵画● 季語の意味・季語の解説 冬は冷たく乾燥した大気から鼻・呼吸器系を守るために鼻水の分泌量が増える。
ゆえに、水洟(みずばな)が垂れやすくなる。
子どもの水洟は愛らしい。
だから次のような俳句が生まれる。
帰る母子の水洟を跼み拭く (柴田白葉女)
跼み=「かがみ」と読む。
一方、大人の水洟は滑稽である。
その滑稽なものを、季語として積極的に詠んできた俳句という文芸には、今さらながら良い意味での野太さを感じる。
なお、昔はタンパク質が欠乏していたため、いわゆる「青っ洟」(あおっぱな)を垂らしている者も多かったが、最近は減ってきた。
水洟の水色膝に落つ故郷 (永田耕衣)
● 季語ばなし 星々を結びあわせ、夜空いっぱいに星座を描いた昔の人たちの創造力は、やっぱりすごい…
そんなことを思いながら、私は冬の星空を眺めていた。
すると、脇の方でズズズと洟(はな)をすする音がする。
見ると、少年時代の私が、青っ洟を垂らしながら、じっと夜空を見つめていた。
もう何十年も昔のいがぐり頭の私が、星々が賑やかに瞬く南の空を見上げ、なにか夢中になって考えている。
「坊や、寒いのに、空など眺めて、いったい何をしているんだい?」
私は彼に尋ねてみた。
すると、少年時代の私はこう答えた。
「今、星たちを結びなおして、新しい星座を作っているんだ。」
青っ洟の私は、シリウス、リゲル、カペラと言った明るい星を、もとの星座からほどいて自由にし、好きなように結びなおしては、新しい星座を生み出していた。
なんだか彼のことが、すごく羨ましく思えた。
「楽しそうだね、坊や。」
「うん! おじさんもやってみなよ。」
自己流の星座を結ぶ水つ洟 (凡茶)
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方 水洟(みずばな)という季語は、実際に厳寒の中に身を置いているかような臨場感を、俳句の読者に与えます。
凍てつく寒さの中で人々の見せる様子が、生き生きと伝わってきます。
夜神楽や水洟拭ふ舞の袖 (高井几董)
朝戸出や水洟はらふ片手網 (黄婦)
朝戸出=あさとで。朝の外出のこと。
また、「息白し」「悴む」など、寒さへの人体の反応を表わす他の季語と比べても、水洟は特に滑稽な味わいが強いので、読者をくすりと笑わせるような俳句を作ってみたくなります。
水洟を貧乏神に見られけり (松本たかし)
念力もぬけて水洟たらしけり (阿波野青畝)
鼻長きキリスト吾は水洟かむ (山口誓子)
自己流の星座を結ぶ水つ洟 (凡茶)
ただ、この水洟という季語の面白い所は、コミカルな俳句を作るのに適していながら、どこか寂しさのある俳句も生まれやすい点にあると思います。
水洟や鼻の先だけ暮れ残る (芥川龍之介)
水洟や見舞うて帰る夕まぐれ (大野林火)
水洟や我孫子の駅にたそがれて (石田波郷)
水洟や波濤のほかは見るものなし (杉山岳陽)
波濤=はとう。大きな波のこと。
≪おすすめ・俳句の本≫佳句が生まれる「俳句の形」 凡茶
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さて、俳句には、読者の心に響く
美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも
中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも
名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
この本は、こうした
佳句の生まれやすい美しい俳句の形を、読者の皆様に習得していただくことを目的としています。
なお、この本は、前著『書いて覚える俳句の形 縦書き版/横書き版』(既に販売終了)を、書き込み型テキストから「純粋な読み物」に改め、気軽に楽しめる形に書き変えて上梓したものです。
あちこち加筆・修正はしてあるものの、内容は重複する部分が多いので、
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